森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

幸せの定員 (創作小説)  ***+6.5*** お金と時間と幸せと

幸せの定員(創作小説) ***6.5*** スマホの「スクリーンタイム」という機能を使うと、毎日のスマホの使用アプリや使用時間が記録されます。その記録は毎週日曜午前9時に週間レポートとして届けられ、「画面を見ている時間は先週から〇%増えました…

幸せの定員 (創作小説)  ***+6***

幸せの定員(創作小説) ***+6*** 「キャンプは来週だけど、その間くらい自分で食事作れるよね、和くん?」 話題が変わった。佳恵は心に溜まっていたものをすべて和幸に吐き出して、すっきりしたようだ。「食事作るなんて全然大丈夫。心配しないでい…

幸せの定員 (創作小説)  ***+5***

幸せの定員(創作小説) ***+5*** ――あの時も本当に必死だった。 いじめから逃れようともがいていた小学六年生の和幸が今の自分とダブって見えた。担任の先生は頼りにならなかったし、腹を立てたり、泣いたりしてみたところで、誰も和幸の苦しみを理…

幸せの定員 (創作小説)  ***+4***

幸せの定員(創作小説) ***+4*** 和幸と佳恵は大学の同期生だった。学部は違ったが、同じテニスのサークルに入会して知り合った。新入生歓迎コンパの席順を決めるくじ引きで二人は偶然隣り合わせになった。佳恵は要領よく鍋料理の世話をし、和幸や…

幸せの定員 (創作小説)  ***+3***

幸せの定員(創作小説) ***+3*** 「ついこの前、新しいクラスがスタートしたばかりだっていうのに、緊張感はもう全然感じられないの。これは決してみんなが打ち解けてきたっていう意味じゃないのよ。わたしが何を言っても、あの子たちはみんな目を…

幸せの定員 (創作小説)  ***+2***

幸せの定員(創作小説) ***+2*** 警察の懸命の捜査にも関わらず、犯人の手がかりが一つも得られないまま、一カ月が過ぎていた。 そして、事故の日以来、鬱々と沈み込んでいたそのクラスに転校してきたのが和幸だった。六年生は二クラスしかなく、一…

幸せの定員 (創作小説)  ***+1***

幸せの定員(創作小説) ***+1*** M小学校は和幸が六年生の秋に転校した先の小学校だった。転校の理由は父親の瀬山幸司が長年の夢だったペンション経営を始めるためにM村に引っ越したからだった。 幸司は二十年間勤めた大手家電メーカーを辞め、県…

幸せの定員 (創作小説)  ***-0.5*** 貧乏な人とは、少ししか持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ

幸せの定員(創作小説) ***-0.5*** 検査入院をする母に付き添ったときのことです。検査入院ですから、どこか体調が悪いわけではなくて、検査後を安静に保つための入院です。その夜一晩を病室で過ごせば翌朝には退院できます。病室は4人部屋、母の…

幸せの定員 (創作小説)  ***-1***

幸せの定員(創作小説) ***-1*** バスは民家の軒先をかすめるようにして器用に狭い道を走り抜けていく。 農協下、役場前、中央通東口、中央通西口……。ほんの数百メートルおきにある停留所に、バスは生真面目に停まって走る。 停留所のベンチに老婆…

幸せの定員 (創作小説)  ***-2***

幸せの定員(創作小説) ***-2*** 「ねえねえ和くん」 食事の手を止め、妻の佳恵が声をかけてきた。佳恵は結婚して半年が過ぎた今でも、大学で知り合った頃の言い方のままで和幸を呼ぶ。 ダイニングにはテレビを置いていない。食事しながらテレビは…