森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

一筆書き

一緒に帰ろう

六月九日朝、夢を見た。父の夢だ。そうだ、今日は父の命日だった。あの日の午後、危篤の報を受けて駆けつけた病室で、父にはまだ息があった。何人かのナースが病室の父の周りに集まっていた。そして次々に家族が駆けつけ、みんなが揃ったのを見届けるように…

ロブラフスカ

さて、プーチンのことだ。彼が一時記憶を失っていたことがあるというのはご存知かと思う。その記憶を失っていた半年ほどの間に世界は大きく変わった。というより地球が大きく変わった、というべきかもしれない。記憶をとり戻したプーチン自身、自分が別の惑…

気持ちの良い朝

実は人間以外にもしゃべることができる生き物がいる。数日前、私はそれを知った。その日は休日だった。休日の朝は庭に出て、家内が育てる花々や私が植えた野菜たちが朝日を浴びて輝く様子を眺めるのがいつものことだった。その朝、庭に出た私に聞こえてきた…

猫になる

お気に入りのチェアを庭に置いてみた。サイドテーブルも置いてみた。太陽は少し西に傾いたばかり。ちょっぴり飲みたい気分。でも、飲むには少し明る過ぎ。太陽を消すリモコンスイッチを太陽に向けてOFF。太陽までけっこう遠いからOFFになるには時間かかりそ…

見えるもの、見えないもの。

見えるもの、見えないもの。 見える。見えている。見えていない。見えない。幸せ、不幸せ。確か、不確か。ある、ない。わたし、あなた。過去、未来。 今そこにあるもの、前からそこにあるもの、あろうとするもの。ほんとうは今はそこにないかもしれないもの…

網戸は窓じゃない。

暑苦しい午後の部屋。窓を開ける。網戸が閉まっている。窓を開けても網戸は閉まっている。網戸の網の目が目に入る。網の目だけが見えてくる。網の目モザイクに見えてくる。窓の外にあったのは青かった空。その青はなくなった。網の目モザイクの青白さが見え…