森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

見えるもの、見えないもの。

見えるもの、見えないもの。

見える。見えている。見えていない。見えない。
幸せ、不幸せ。
確か、不確か。
ある、ない。
わたし、あなた。
過去、未来。

今そこにあるもの、前からそこにあるもの、あろうとするもの。
ほんとうは今はそこにないかもしれないもの。

この先見えなくなるかもしれないもの、ここから消えようとしているもの、今そこにないもの。
消えたばかりなのかもしれないし、もともとなかったのかもしれないし。

生きるもの、生きないもの。

生きる。生きている。生きていない。生きない。
信じる、信じない。
疑う、疑わない。
思う、思わない。
わかる、わからない。
知る、知らない。

生まれる前は知らない。その後も知らない。
なんにも知らないのに生きている。

ただ生きている。
猫が笑う。

 





 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。