森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

第一の人生の終わり方

 
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同じ朝、同じ昼、同じ夜。
仕事を終えて帰宅して、何はともあれ、まずお風呂。
夜はのんびり食べて飲む。
家族みんなが揃うのは夕飯の時くらい。
少し話して、少し聞く。
子供らは数回ご飯をお代わりし、それでもすぐに食べ終わり、部屋へ戻って誰かとゲーム。
わたし一人食べ終えずに飲んでいる。
家族と一緒に食べて飲む、話して聞くのが生きること。
そのために働いた。
楽しい仕事の日だけじゃない。
あれこれ気持ちを塞ぐ日も、腰や肩が重い日も、なかったと言えば噓になる。
話して聞いて食べて飲んで、それですっかり忘れてしまう。
忘れてしまって酔っ払う。
酔っ払ったら眠くなり、
布団をかぶってふと思う。
今日という日の延長に必ず明日が来るのだろうか。
今日と明日とが違うのは、存在するのかしないのか。
存在するのは今、一瞬。
その先を信じて今日まで生きてきた。
これからもそれでいい?
本当に必ず明日は訪れる?

 

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春と秋とが出会ったのは、夏の海を漕いでゆく、舟の網カゴの中でした。
気持ち良い香りがしています。
陽は傾いて、西の果てにすぐ沈みます。
穏やかな風を受け、海鳥たちが静かに空を舞ってます。
風に乗って流れています。
花びらが欲しい、秋は春に頼みます。
両手いっぱいの柔らかな花びらを、春は秋に託します。
葉っぱが欲しい、春は秋に頼みます。
両手いっぱいの錆びた葉っぱを、秋は春に託します。

舟の網カゴは空っぽになりました。
香りが甘く揺れてます。
風が吹いていきました。
香りを一緒に運びます。
波のしぶきの天辺を蹴り、軽々と進みます。
花びらの流れる香りを嗅ぎますと、葉っぱの流れる様を見てますと、風の通り道が分かります。
上へ下へ、右へ左へと流れます。
流れ流れて花びらは、いつか葉っぱと海底へ。
花びらも葉っぱも全部消えてしまったら、そこから先、風の行く方は見えません。
見えない先をそれでも風は進みます。
さらにさらに進みます。
次の花びらに出会うまで、その次の葉っぱを散らすまで。
それでまた、きっと風が見えるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。