森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

網戸は窓じゃない。

暑苦しい午後の部屋。
窓を開ける。
網戸が閉まっている。
窓を開けても網戸は閉まっている。
網戸の網の目が目に入る。
網の目だけが見えてくる。
網の目モザイクに見えてくる。
窓の外にあったのは青かった空。
その青はなくなった。
網の目モザイクの青白さが見えるだけ。
あったはずの空をもう一度見たい。
目を凝らす。
網の目が消え空が現れる。

ほんとうの青い空。

網戸を開ける。
青い空と蚊が入ってくる。
蚊の羽音が入ってくる。
羽音が耳元に届き大きくなる
次々に羽音が殖えてゆく。
窓を閉める。
羽音が消え、風が止み、首の後ろが痒い。
すりガラスの窓。
青い空も網の目もすりすりに変える。
ガラスの向こうに何があるのか見えやしない。
風の代わりに扇風機を回す。
ちがう。
扇風機の羽根を回す。
回ると羽根が見えなくなる。
羽根を見ると目が回る。
吹いてくる風は暑苦しい。
扇風機を消して窓を開ける。
ちがう。
扇風機の羽根の回転を止めて窓を開ける。
そして網戸を閉める。
蚊は入ってこない。

入ってくるのはほんとうの風だけ。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。