森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

気持ちの良い朝

実は人間以外にもしゃべることができる生き物がいる。
数日前、私はそれを知った。
その日は休日だった。
休日の朝は庭に出て、家内が育てる花々や私が植えた野菜たちが朝日を浴びて輝く様子を眺めるのがいつものことだった。
その朝、庭に出た私に聞こえてきたのは誰かの話し声だった。初めて聞く声だった。
小鳥たちのさえずりかと思ったが、もう少し優しい声だった。
虫の羽音かとも思ったがもう少し大きな声だった。
息を止めて耳を澄ます。
声はすぐ目の前から聞こえてきた。
そこにはサフィニアの花と大根の花が咲いていた。
大根にも花は咲く。春の七草のひとつに数えられるすずしろがそれだ。秋に植えた大根が大きく育つのを待つうちに食べる機会を逃してしまい、そのままにしていると、トウが立ち花が咲いた。
サフィニアは太陽の陽射しを浴びて、笑うように花びらを広げていた。
声は確かにサフィニアと大根の花との間で交わされている。
何をしゃべっているのか、話し声からいくつか聞き取れた単語もあったが、音楽のような文脈と一緒に流れていき、私にはまったく理解できなかった。
私はサフィニアの花を摘み、大根の花を根元の茎から折った。
途端に話し声が止んだ。
朝はいつもの静けさを取り戻した。しばらくすると小鳥たちの声が聞こえてきた。空は青く流れる雲は白かった。
気持ちの良い朝だ。
そんな朝には小鳥のさえずりがとっても似合っている。

 





 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。