森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

子供のように描く

“この子たちの年齢の頃、私はラファエロのように絵を描くことができた。しかし、子供のように絵を描けるようになるまでは一生かかった。”

パブロ・ピカソが子供たちの描いた絵を見て言った言葉だ。

 

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ピカソ83歳のときの作品『顔 No.197』

 

「子供のように描く」とは、素直にシンプルに描くという意味だろうか。素直でシンプルにしか描けないから子供っぽいと言われ、そしてそれは普通マイナスの意味で使われるのだが。

 

“古池や蛙飛びこむ水の音”
(松尾芭蕉)
「素直でシンプル」で、この俳句を思い浮かべた。

芭蕉の代表作だというが、山猫にはこの俳句のどこがすごいのか全然分からなかった。
人に訊いてみると、「静か」という意味の言葉を用いずに直感的にそれをイメージさせるところがすごいらしい。
あまりにシンプルすぎてちょっと拍子抜けしてしまうけれど。

 

もう一つ思い出した「素直でシンプル」。

 

『一年一組せんせいあのね』(鹿島和夫)に出てくる子供たちのつぶやきだ。

 

「おとうさん」
おおたに まさひろ


おとうさんは
こめややのに
あさ
パンをたべる

 

小学校1年生の子供たちのつぶやきを編んだこの本は、30年以上前に神戸で小学校の教師をされていた鹿島和夫先生が子供たちが書いてきた『あのね帳』から言葉を拾って、灰谷健次郎とともにまとめた詩集だ。

 

まさひろくんがお米屋さんであるお父さんを見る目はとても辛辣だった。



「ぼくがうまれたとき」
どい まさゆき


ぼくのうまれたとき
おとうさんがおとこでよかったといいました
かなこがうまれたとき
おかあさんがおんなのこでよかったといいました
あとでかなこがしにました
こんどたかしがうまれたとき
おとうさんもあかあさんも
おとこでもおんなでも
げんきならいいといいました

 

お父さんお母さんがつぶやいた言葉をただ並べただけだ。たったそれだけで、子供たちに注がれるご両親の深い愛が伝わってくる。

 

紹介するとキリがないけれど、もう一つだけ。

 

「おとうさん」
にしかわ ちかこ


おとうさんのしゃしんがあるから あさになったら「おはよう」といいますよるになったら「おやすみなさい」といいます いもうともあかちゃんもおかあさんも てをあわせます おとうさんはなにもいいません

 

お父さんはこの3人の子供たちに言いたい言葉が山ほどあっただろうに。

 

僕たちは大人は、きっと無駄に言葉を重ね過ぎている。

 

 

 

 

 

 

 

  
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