森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

入院八日目、今日で管がすべて抜けました。

6時。
目が覚めました。すでにセミの声が聞こえていました。空が見たくて面会室まで散歩。今日は快晴です。
窓側のベッドならこの景色
がベッドに寝転んだまま見ることができるのです……

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病室に戻り、自分のベッドに横になりました。
2方向が壁で、残りの2方向がカーテンで……、海も空も見えません。
ま、廊下側に設置されている共用のトイレと洗面が窓側ベッドの患者さんよりやや近いというメリットがあります。それで我慢しましょうか。

7時少し前。
カーテン越しに看護師さんの声が聞こえてきました。隣の患者さんは今日手術を受けられるのです。
「水分が飲めるのは7時までですから、今のうちに飲んでおいてください。しばらく飲めませんからね」
「はい、もう大丈夫です」隣の患者さんがそう返されました。
いや、少しでも飲んでおいた方が、、、、わたしはそう思いましたが、声には出しませんでした。
手術の日はこの先、もう一滴も水分は摂れません。その次飲んだのは看護師さんにもらったほうじ茶でした。それって手術の次の日だったでしょうか?
わたしは、ICUで麻酔から覚めたときの強烈な喉の渇きを思い出しました。喉はカラカラで、口の中にゴムボールみたいなものが入っていました。ゴムボールみたいなもの、それが自分の舌でした。舌がうまく使えなくて、看護師さんに「息苦しいです」と訴えたときの声は言葉になっていませんでした。
喉がカラカラだったのは水分を摂れなかったことだけが理由ではなくて、手術中、気道を確保するために気管チューブが通されていたからだ、と後になって分かりました。1週間過ぎた今日もまだ声は掠れたままです。

次は7時半頃。
「これに着替えてください。ズボンはそのままでいいので、上のシャツは脱いでおいてください。お着替えが終わったら浣腸しますね」
看護師さんは手術着を持ってきたようです。

そして8時。
今日のカレンダーのアナウンスがあり、朝食が運ばれてきました。パンにはぶどうジャムが添えられていました。隣の患者さんにはもちろんありません。
あの日は、カーテンの向こうからパンの良い匂いがしてきたんだった。
食べながらふと思いました。
これって、今カーテンの向こうで起きていることって、、、そっくりそのまま1週間前の自分のことじゃないか?

とうとう8時半も過ぎました。
「荷物は病室から持って出るので、一度全部片付けてくださいね」
「え、全部? 今からですか?」隣の患者さんの驚く声。
そうそう、あの朝わたしもそう言われて驚きました。手術開始は9時15分の予定です。
前の日に言っておいてくれたら準備できたのに。すぐに手術室に向かうこんなときになって、急に言われても、、、。

一週間前、わたしはそう思いました。きっと隣の患者さんも同じ思いでいることでしょう。
でも、片付けないわけにいきません。看護師さんも手伝って、バタバタと引っ越し準備が始まりました。
「ICUに持って行くのは、オムツ、腹帯、タオル、ティッシュ」
看護師さんが読み上げるように言います。
「貴重品は鍵のかかるところに保管しておきますね」
看護師さんの声が急かすように聞こえ、1週間前の自分がカーテンの向こうで焦っている。こんな気分で手術室に向かいたくないなぁ。そう思ったのでした。
まるで、タイムマシーンに乗って手術当日の朝のこの病室にやってきて、カーテン越しに自分の行動を見守っている。そんな不思議な気分になりました。

9時。
主治医の先生の回診がありました。
午後からレントゲンを撮って、そして尿の管を抜きましょう。2時か3時頃になるかな、とのことでした。

ついに9時10分。
隣の患者さんがベッドに寝かされたまま病室から手術室に向かわれました。

このあと午前中はのんびりできると思っていましたが、11時前になって、レントゲン室に行くよう呼ばれました。空きができたので、予定が早まったようです。尿の管で繋がっている点滴スタンドを連れて病室を出ました。
レントゲン結果に異常はありませんでした。手術からここまでほぼ順調に過ぎました。けれど、今回の入院で手術の次に
嫌だと思っていたのが、そのあとです。入院前から覚悟していました。管を抜く瞬間です……。そして、抜けてからもいろいろ大変でした。しばらくは排尿障害があります。長くて数週間のことだそうですが、、、

ごめんなさい。ここからのあれこれは具体的に書くのがためらわれますので割愛させてください(^_^;

 

入院八日目、管がすべて抜けました。
点滴の針を刺していた腕の痛みはすっかりなくなりました。傷痕の痛みもかなり引きました。咳き込んでもあまり痛くなくなりました。
管がなくなったので、今夜から寝返りもできますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。