森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

震災通信(阪神淡路大震災体験記) ***48日目(3月5日)***

 
 
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 26年前、わたしは神戸市兵庫区で震度7の揺れを経験しました。その記憶を日記とパソコン通信のログとで振り返っています。あの日から48日目です。今も時折り思い出す苦い日です。この日が区役所応援最後の日になりました。

 

 

3月5日(日)
 今日の被災家屋再調査のペアは市土木局のK場さん。鵯越の独身寮に住んでいるという。
 最初は天井の板がごっそり抜け落ちた家を調査する。一見するとひどい被害のようだが、他はどこも傷んでいない。おやじさんは大工さんだが、怪我をして現在失業中とのこと。年配の気のよさそうなおばあちゃんが、あまりに辛そうに話されるので、何とかできないかとも思ったが、結局、一部損壊の判定で納得してもらう。多少例外をつくってもよかったんじゃないか、少し厳しかったかと気になって仕方ない。
 熊野町のヤンキー風のにいちゃん、いきなり文句を言い始める。家の中を見せて頂きますから、と何度もくり返し言うとようやく落ち着いてくれた。建物の基礎部分の周囲全てに亀裂が入っている。半壊の判定。最後は、興奮してごめんな、と謝ってくれる。一軒目に調査したおばあちゃんのことを思い出し、複雑な気分になる。
 熊野町の全壊のおばさん、近所の自治会長のおじさんが口をはさんできて、全壊になるとガスが止められてしまう、と訳がわからないことをおっしゃる。課税課の課長に電話で確認。やはり近所の話の判るおじさんが中に入ってくれてようやく納得してもらう。
 この件では帰ってからさんざんからかわれた。例の係長もそこに加わるが、何を言っているのか、何が言いたいのかよく判らない。後で課長に僕が教職だという話をする。避難所と再調査どっちがよかっただろうか、究極の選択やなという所に話が落ち着く。
 A田さん
(※被災家屋再調査が始まった当初にペアを組ませていただいた兵庫区役所職員の方で、震災後わたしが兵庫区役所で働いた中で一番親しみを感じさせていただいた人です)に、明日から数日交代します、というと、戦力ダウンになるな、と返される。あくまでもからかわれているのだと思うが、とりあえず、少しだけ心が軽くなったような気がする。


 因幡さん(※大学時代の先輩、豊岡在住、県職員)からメールが届く。

 

 #濁酒 G*D00*60 95/03/05 08:20
題名:風邪お大事に
 家屋調査とは大変なお仕事ですね。
 でもいろんな話が聞けて、いい経験ですね。
 私は体調はいまいちですが、ぼちぼちやっています。
 今年度が当分終わりそうに無いですが・・・、
 炊き出しに派遣されそうになりましたが、
 運悪く? 補欠になってしまいました。
 6日に神戸出張しますが、
 車で行こうか、列車で行こうか迷っています。

 

※悩んだ記憶、悔やんだ思いほど深く長く残るものなのでしょうか。

 この日再調査に訪れた、天井の板がごっそりと抜け落ちたようになっていたあの家のこと、おばあちゃんの辛そうな表情、、、を今も思い出すことがあります。外観上はほとんど損壊が確認できず、判定基準からすると、どうしても一部損壊としか判定できませんでした。

 でも、そんな杓子定規な対応で良かったのか、何かできることはなかったのか、思い返すたびに苦い思いが心の中に広がります。

 そして、この苦い思いを抱えたこの日が、わたしにとっての被災家屋再調査最後の日となりました。

 

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旧兵庫区役所・兵庫消防署

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現在の兵庫区役所(2019年8月完成)


 ※下のリンクは震災当日の記録です。 

www.keystoneforest.net

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
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イラスト/バリピル宇宙さん (id:uchu5213)