森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

ポジティブに今を生きよう 君の名は。/新海誠

「君の名は。」を観た。原作・脚本・監督は新海誠。

9月22日現在、公開28日間で観客動員774万人、興行収入100億円を超えたという。

これまで、宮崎駿作品以外に100億円を超えた邦画アニメーション作品は他にない。

ちなみに、その宮崎作品は、「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」「もののけ姫」「崖の上のポニョ」「風立ちぬ」の5作品である。

「君の名は。」のストーリーについては現在上映中の作品なのでここでは触れないが、何より映像が美しい、というのが一番の印象だった。

山深い糸守町の森の木々のざわめきや水の流れ、舞い散る木の葉や心に刺さるほどの星空だけではない。東京のビル群も鮮やかに輝いて見えた。

「美しい風景を観ることで、明るい前向きな気持ちになってもらえるんじゃないか。前向きな気持ちのときに観る風景が美しいから、その逆で、美しい風景を観れば人は明るい気持ちになれるんじゃないか」

と新海誠は語っている。

そのために、実際の自然や街の風景をもとに実写のようにリアルな絵を描く。さらに「同じ絵の中なんだけど、この場所はちょっと夕日のイメージで描こうとか、そんなふうにライティングを意図的にミックス」して映像を作りこんでいる。

だから現実よりも美しい。いつも観ている平凡な風景がいきなり輝き出す。

観る人にそんな思いを与えたいという気持ちが映像に現れているのだ。

見慣れたはずのJRの駅、電車。道路、歩道橋。そんな当たり前の風景を、改めて自分の目で確かめてみたくなって、映画に感銘した人たちがモデルになった(とされる)場所を訪れている。「聖地巡礼」というらしい。

この映画で訴えたかったものは、「ポジティブに今を生きよう」ということだ、と新海は言う。

「こういう感じのアニメーション映画が観たいって、みんなが思っている何か大きな穴みたいなものが若い子たちを中心としたどこかにあって、ちょうどその穴の形に近いような作品が、ちょうどその穴が開いているタイミングに僕たちが出すことができたんだと思う」

その「穴」とは、心の底にぽっかりと開いているのだろうか。知らず知らずのうちに抱え込んでいる喪失感のようなものなのだろうか。

ならば、それを埋め、前を向いて歩き出そう、というメッセージだろうか。

「この何年か、自然災害がとても多くなってきていて、自分の住んでいる場所がなくなってしまうかもしれない。あるいは、なくなってしまった。あるいは、明日なくなるかもしれない。そういう気持ちを多分僕たちは今みんな抱えていて、そういう状況にあるっていうことが、なぜそういう絶望のなかで希望が叶うような話を作りたいのかっていう自分自身の気持ちにつながっていく」

「現実には、なかなか奇跡は起きないわけですよね。時間を戻せるわけでもないし。でも、僕は今回『君の名は。』という映画を作って、その映画の中でひとつ、この大きな奇跡を起こしてしまっている。自分は今これを観て欲しい。観てもらう価値がある、と自分は今思っている」

「君の名は。」は、普段アニメーションを観ない世代の人たちを多く取り込んでいるという。実際に、今日の映画館でも、若い世代よりも、むしろそうした世代の人たちのほうが多かった。

そうした世代の人たちとは、「不可能だと賢く判断するんじゃなく、無駄かもしれないと分かりながら前に進んでみる」ことをしなかった過去を持つ人たちなのかもしれない。

僕もそのうちの一人だった。

 

※参考資料;「とくダネ!」「ニュースZERO」「報道ステーション」「白熱ビビット」

 

 

 

 

 

 

 

  
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