森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

何を追ふ地下道を往く木枯らしや

わたしの住む神戸・六甲山南麓に木枯らしが吹いたのは11月のはじめでした。

角川学芸出版『角川俳句大歳時記』には

凩【こがらし】木枯(こがらし)
冬の初めに吹く強い北風である。語源は「木を枯らす」とも「木の嵐」ともいわれるが、どちらにしても木にかかわりがある。この風が吹くと、枝の木の葉は残らず飛び散り、散り敷いた落葉もところ定めずさまよう。

とあります。

わたしは「木枯らし」と書きましたが、「木枯」と書くと「木を枯らす」という意味、「凩」と書くと「木の嵐」という意味が鮮明になるのでしょう。
枝の木の葉を残らず吹き飛ばし、木を枯らしてしまう風。改めて意味をたどると胸に迫るものがあります。

 

木枯の句に好きな句が二つあります。

海に出て木枯帰るところなし(山口誓子)

木枯一号アンドロメダを吹き落とす(土見敬志郎)

山口誓子の句は現代国語の教科書か何かで知りました。
山から吹き下ろす木枯が勢いよく海にまで吹き出てみたものの、ふとまわりを見ると誰もいない。一人で海を彷徨っている。
その孤独に気付いたものの今さら帰る場所などない。
というような漠然とした寂しさのようなものを高校生の頃のわたしは感じたのだと思います。

一方、アンドロメダの句は歳時記に掲載されている例句のなかで山口誓子の次に心に残った句です。
こちらは木枯の勢いの爽快なまでの凄まじさが印象的です。こんなふうに詠んで良いんだと教えてもらったようで、勇気付けられた句でもあります。

ところで、山口誓子の句ですが、今回俳句を詠むようになって知ったことがあります。というか、今ごろになってようやく知った、といった方が良いのかもしれません。
山口誓子がこの句を呼んだのは昭和19年11月、太平洋戦争末期です。この年も木枯は強く吹き荒んだことでしょう。そして、この帰るところがない木枯は特攻兵だというのです。
山口誓子自身が「この句を作った時、私は特攻隊の片道飛行を念頭に置いていた」と書いているのだそうです。
体当たりして敵を葬るために、そして自分自身の命も捨て去るために、特攻兵が特攻機に乗り込んで飛び立っていく。その姿を木枯に重ねているのです。帰るところのない木枯に。

 

 

地下道を走り抜けたる木枯らしや

木枯らしが強く吹く月曜日の朝、わたしは阪急電鉄の駅地下通路を三宮方面行きホームに向かって足早に歩いていました。地下通路に落ち葉が吹き込んでいました。木枯らしが連れてきた落ち葉です。人工の構造物である駅の通路に落ち葉が敷き詰められている様が月曜の朝の物憂い気分をちょっぴり和らげてくれた気がしました。

 

何を追ふ地下道を往く木枯らしや

Twitterで相互フォローさせていただいている方のなかに「地下道を往く」というバンドで活躍されているみきさんという方がいらっしゃいます。木枯らしは何か追うように急ぎ足で駆け抜けていきます。わたしも何かを追いかけて生きているんだろうか、もしそうだとしたら、わたしは何を追いかけているんだろう。その何かにわたしは少しでも追いつけているんだろうか、それとも、距離は開いていくばかりなんだろうか。

 

木枯らし来る今日が最後と思ひ切らむ

木枯らしは枝の木の葉を残さず吹き飛ばすという。雲行きが怪しい。そろそろやってきそうだ。さあ、今日が最後。今までみんなありがとう。人生にもいつかそんな日がやってくるのかも。

 

止まれ木枯らしその先は袋小路

なにしろ風のことなので、真っ直ぐにしか吹けません。曲がるなんて無理無理。止まるなんてのも絶対に無理。曲がりたくても止まりたくても、どんどん背中を押されるので、前に吹き進むしかできません。なにしろ風のことなので。

 

凩やただ前だけを見てきたり

後ろに目があったら便利だろうか。今まで見えなかったものが見えるようになれば便利だろうか。けれど、そうなったとしたら今度は上とか下とかが気になって仕方がない、そんなふうになったりするんじゃないだろうか。ただ前だけを見ることの潔さを選びたい。

 

 

もし、お心に留まった句がおありでしたら、コメントいただければ幸いです。感想をいただくことで、たくさんの気付きを得ることができます。
また、いただいたコメントをブログ中で紹介させていただくことがあります。どうぞご了承くださいますようお願いします。

 

 

① 地下道を走り抜けたる木枯らしや

 

② 何を追ふ地下道を往く木枯らしや

 

③ 木枯らし来る今日が最後と思ひ切らむ

 

④ 止まれ木枯らしその先は袋小路

 

⑤ 凩やただ前だけを見てきたり

 

 

 

 

 

以下、大変手前みそで恐縮ですが、、、前回の記事捨て猫の小さき肉球いわし雲 〜教育実習生担当日誌(1) - 森の奥へにいただいたコメントから、良かったよと言っていただいたコメントと句を紹介させていただきます。

 

③ 秋天の青なほも青鳥一羽

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青空の下、何気ない日々が繰り返されるばかりですが、懐かしく思う時が来るのですね。

harienikkiharienikki

まさに秋の晴天という感じがして青が美しく感じます。

URURUNDOURURUNDO

秋の空の広さ、深さを感じさせる。そこに鳥が加わり動きも感じる。静かな美しい句。

今回はなぜか空に惹かれました。

元気が出ます!

青の極みですね。鳥一羽もすてきです(#^.^#)。

 

 

 

 

 

snow36(id:snow36)さん、チャーコ(id:harienikki)さん、ururundo(id:URURUNDO)さん、3回連続10cm(id:sankairenzoku10cm)さん、このはずく(id:mkonohazuku)さん、スフレ(id:sufuretan)さん、そしてこのほかにもコメントをくださったみなさま、ありがとうございました。

 

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よければtwitterものぞいてみてくださいね。山猫 (@keystoneforest) | Twitter
 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。