森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

願いを叶える天使と悪魔。南の島の怒りん坊の王様。 (創作超短編小説2編)

 
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願いを叶える天使と悪魔。

 

 

すべてに絶望し、自らの命を絶とうとしている男がいた。 

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 そこに、天使が現れて言った。

「ひとつだけ、あなたの願いを叶えてあげましょう」

男は答えた。

「俺に夢をくれ」

天使がウインクすると男には夢が生まれた。

夢は男に生きていく希望を与えてくれた。

 

夢はなかなか果たせない。

男は自分の不運を嘆き、力のなさを呪った。

 

男は絶望し、自らの命を絶とうとした。

するとそこに、今度は悪魔が現れて言った。

「ひとつだけ、おまえの願いを叶えてやろう」

男は大喜び。

天使に与えてもらった夢を悪魔に告げた。

悪魔が空に向かって口笛を吹くと、即座に夢は現実になった。

 

ところが男は夢を失い、生きていく気力をなくした。

すべてに絶望した男は、、、

 

 

 

 

 

 

 

南の島の怒りん坊の王様。

 

 

南の島に怒りん坊の王様がいました。

怒ってばかりなので、いつも顔が真っ赤です。

おでこからびっしょり汗を噴き出させ、よけい暑くなってまたまた汗をかいていました。

王様は暑くて暑くてたまりません。

 

ある日、王様は島人たちに北の島に氷を取りに行くよう命じました。

冷たい氷で自分の部屋を涼しくすればいいと思い立ったのです。

島人たちは王様に喜んでもらおうと、一生懸命に舟を漕いだり泳いだりして北の島へと出かけました。

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「王様、氷を持ち帰ってまいりました。」

南の島一番の力持ちの男が、大きな箱を引っ張って真っ先に帰ってきました。

力持ちの男が得意満面の表情で箱の蓋を開きます。

王様と力持ちの男が箱の中を覗き込みますと、、、どうしたことか、中はからっぽ。

「お前、私をだましたな。」

王様はかんかんになって怒りました。

「いえ、王様、そんなはずは」

力持ちの男が汗をかきかき調べてみますと、箱の中は底だけがびっしょりと濡れていました。

どうやら氷は持ち帰る途中で溶けてなくなってしまったようです。

力持ちの男はおでこを地面に押し付けて平謝り。

 

その後も、何人もの島人たちが北の島めざして舟を漕ぎ出しました。

ところが、どれほど大きな氷の塊でも、南の島に持って帰る途中で溶けてなくなってしまいます。

氷を持ち帰れなかった島人たちは、そのたびに、王様に大声で叱られました。

やがて、北の島に向かった島人たちは帰ってこなくなりました。

それを探しに行った島人もまた帰ってきません。

島人たちは、涼しいうえに、うるさい王様のいない北の島に住みつくことにしたようです。

 

島人は一人減り二人減り、とうとう南の島は怒りん坊の王様だけになってしまいました。

海辺に座り、水平線の彼方に目をやって、誰かの舟が帰ってこないかずっと待ち続けました。

くる日もくる日も、王様は海辺に座って遠くを眺めていました。

でも、誰も帰ってきません。

また夕方になりました。

 

おーい みんなー

氷なんかもうどうでもいいから

もう怒ったりなんかしないから

帰ってきておくれよー

おーい みんなー

おーい

 

王様は海に向かって大声で叫びました。

いつも怒ってばかりいた王様は、そのとき初めて涙を流しました。

すると、その涙は王様の頬を伝い、ポタリと砂浜に落ちて、

ジュッ

ジュジュジュジューっと湯気が立ちました。

その湯気がおさまりますと、今までの暑さがうそみたいにシューンとやわらいで、涼しい海風が吹いてきました。

 

しばらくしますと、はるか彼方の水平線に、島人たちが漕ぐいくつもの舟影が小さく見えてきました。

 

 

 

 

 

 

 

  
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