森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

山猫ノート 4

 

 

焼き肉レタス(チシャ、サンチュともいう)を庭の畑に植えた。

この夏、隣家から三度豆の種(三度豆)をもらって蒔いたらそれほど世話をしなくてもすくすく育ち、けっこうな量が採れた。それで味をしめた山猫は今度は焼き肉レタスを種から育てることにした。

一番合うのはサムギョプサルだが、焼いた肉をこれで巻いて食べればたいていうまい。

種を2時間吸水後、冷蔵庫で2日間芽出ししてからまくように、と作り方が書いてある。

先週末に吸水させた後、冷蔵庫に入れてそのままにしていたものを今朝畑に植えたのだ。

5日間も芽出ししてしまった。うまくいくかな?

夕方近く、様子を見てみると、アリたちが一生懸命、小さな緑の葉っぱを運んでいた。行列は今朝植えた焼き肉レタスの芽(苗)のところから続いていた。

焼き肉レタススプラウト。少し苦味があってきっとおいしいに違いない。

アリの行列をどう退治しようか考えたが、どうしようもない。焼き肉レタスの頑張りに期待するしかない。

 

・博打打ちというものは、例外なしに、勝ちこんでいくことによって、人格を破産させていくのである。

阿佐田哲也

 

・見かけのきつそうな人間はたいていへつらいにもろいもの

・女性にとって愉しい日は一年に六日だけである。つまり、(子供の)休暇の最初の日と最後の日なのだ。

・子供というものは、外へ出ると家にいる時とは違ったふうに振舞うものだということも、彼女は世間のうわさで知っていた。いつでも一番わりのわるいめにあうのは母親なのだ。けれども、そのほうがいいのかもしれないと、彼女は思い直した。家ではもの静かで、よく言うことを聞き、行儀もいいが、外へ出ると、とたんにならず者のようになり、悪評をたてられたりする子供を持ったのでは、なおしまつがわるいにきまっているーーそう、そのほうが苦労のたねになるにちがいない。

アガサ・クリスティ

 

・夕闇は海の面(おも)から湧き上がった。沖から寄せるうねりの長い弓なりの線がそれでも暗い中に眺められた。

・傷は五分程もない。彼は只それを見詰めて立った。薄く削がれた跡は最初乳白色をしていたが、ジッと淡い紅がにじむと、見る見る血が盛り上って来た。彼は見詰めていた。血が黒ずんで球形に盛り上って来た。それが頂点に達した時に珠は崩れてスイと一ト筋に流れた。

・どうせほこりの中にいるなら、知らずに平気でいる人の方が、幾ら幸福か知れない。

・彼は女の大きな重い身体を膝の上に抱き上げてやった。女の口は涙で塩からかった。

志賀直哉

 

『野音』の3ページから5ページ目まで。

山猫はこの頃、志賀直哉に傾倒していた。引用部分は書名を記録していないのではっきりしないが、おそらく全て『暗夜行路』だろう。

ドラマチックな展開などほとんどない、単調な物語だったと覚えている。でも、面白かった。

何がかというと、文章の全てが。

文庫本の残りのページ数が少なくなるにつれ、これ以上読み進められないと思うと、読むのがもったいない気持ちさえした。

『野音』の3ページ目の後半から5ページ目の終わりまでを、この時心に残った志賀直哉の文章で全て埋めている。

彼の文章をなぞれば、自分にもそんな文章が書けるようになると思っていた、のかも知れない。ここに紹介した他にいくつも書き写している。

が、読み返せば、どうにも暗い文章ばかりだ。

気持ちが下向きのようだ。これではいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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