森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

過酷すぎる50km競歩、荒井広宙選手銅メダル

 

 

荒井広宙選手が銅メダルを獲得した50km競歩は、オリンピック、世界陸上とも男子にしかない。 ちなみに、オリンピックでは、男子は20kmと50kmがあるが、女子は20kmだけである。

理由はその過酷さにある。

一層過激な表現だが、生まれてきたことを後悔するくらい苦しい競技と言う人もいる。

オリンピックの季節はしかも、真夏である。

給水用のコップの水を頭からかぶり、気休め程度でしかないミストを浴びながら顔を歪ませて走る。いや、歩く。歩くが普通に歩いてはいけない。

競歩のルールでは、普通の歩き方は許されていないのだ。

常にどちらかの足が地面に接していること、前脚は接地の瞬間から地面と垂直になるまで膝を伸ばすこと、この2点が競歩の主なルールだ。違反すると反則となり、明らかな違反にはレッドカードが示される。累積3枚で失格だ。

だから、いくら疲れてもゆっくり休みながら歩くわけにはいかない。

現に、リオデジャネイロオリンピックのこのレースでは、2位以下の選手を引き離してトップを走っていた選手が、突然足を止めレースを中断してしまった。疲労のあまり足が動かなくなった彼にはゆっくり歩きながら競技を続ける選択肢はなかったのだろう。

4年後の東京、猛暑の中でのレースを思うといたたまれない気分にさえなった。

荒井は終始自分のペースで歩き、3番目にゴールした。日本競歩界初のメダル獲得だった。ところが、なんと荒井にレース中の接触による失格処分が下される。きっとあれだ。思い当たるシーンがあった。

荒井選手とカナダのエバン・ダンフィー選手との間にそれが起こったのは49キロ付近だった。少し手前で荒井はダンフィーに抜かれ4位に交代していた。抜かれた荒井はダンフィーに追いすがる。そして、前方を行くエバンを荒井が左後方から抜き返そうとした際に二人の体が接触したのだ。その後、ダンフィーが大きくふらつきペースダウン。そのまま荒井は歩き続け、3位でゴールインした。

接触の瞬間、相手選手が肘を当ててきた、ように見えた。明らかに抜かれるのを妨げようとしていた、ように見えた。だが、接触の直後に失速したのは相手選手の方だった。

競歩のレース映像を観たのはこの時が初めてだったが、何となく嫌な予感がした。

失格処分と聞いて、やっぱりな、と気を落とす反面、やられたな、とも思った。真相は分からない。しかし、失格取り消しを求めた日本側の訴えが認められ、結局、荒井選手に銅メダルが確定した。

一度は幻に終わりそうな銅メダルを獲得した荒井はこう語っている。

「悪いことをしたとは思ってなかった。レース後、カナダの選手から謝ってきてハグした。選手同士に問題はなかった」
「ダメだったらどうしようとか、でも獲れたらどうしようとか考えていた。結果として獲れて感謝しています」

と。

これに対しダンフィーは、

「競歩ではよくあること。接触は悪意があったとも意図的だったとも思わない。今夜は穏やかに眠れる。これが正しい選択だから」

との談話を発表している。

ダンフィーはこのレースで、立ち止まっている選手の肩をたたき、激励する場面も見せてくれていた。きっと荒井との間にしこりはないはずだ。

リオデジャネイロオリンピック閉会式で、二人は互いの国の国旗を持って笑顔でツーショットに収まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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