以下は、リオデジャネイロオリンピック陸上競技男子1500m決勝の結果である。
1位;マシュー・セントロウィッツ・ジュニア(アメリカ) 3分50秒00
2位;タウフィク・マフルーフィ(アルジェリア) 3分50秒11
3位;ニック・ウィリス(ニュージーランド) 3分50秒24
そして次はリオデジャネイロパラリンピック陸上競技男子1500m(T13視覚障害)の結果である。
1位;アブデラティフ・バカ(アルジェリア) 3分48秒29
2位;タミル・デミッセ(エチオピア) 3分48秒49
3位;ヘンリー・カーワ(ケニア) 3分49秒59
4位;フォーダ・バカ(アルジェリア) 3分49秒84
4位まで紹介したのは、この4人が全員オリンピック優勝者のタイムを上回っているからである。
つまり、1位のアブデラティフ・バカ選手から4位のフォーダ・バカ選手(アブデラティフの弟)までの4選手は、もし仮に、オリンピックの決勝レースを一緒に走っていれば、メダルを獲得できたことになるわけだ。
この4選手が出場したT13視覚障害のクラスは、視力は、0.03以上0.1までのものと視野が5度以上で20度以下のもの、とされている。
彼らには視力がまったくないわけではないのだ。だから、このクラスの選手には伴走者はつかず、単独で走らないといけないことになっている。つまり、オリンピックの1500mで一緒に走ることは十分可能、ということだ。
健常者と障害者とが同じ舞台でまったくハンディなしで勝負を競い、障害者が勝利する。そんな場面が観られたかもしれなかった。こんな素晴らしいことってないよね。
と、最初は思った。そんな場面をぜひ観てみたいと思った。が、引っかかるものがあった。オリンピックの方の優勝タイムだ。
セントロウィッツ選手の記録は3分50秒。
遠い過去を思い出してみれば、中学高校の頃、陸上部の俊足の部員で1500mを4分台で走るものがいたような気がする。もし、そうだとすれば、セントロウィッツの記録は遅すぎないか。
調べてみた。
すると、今年の全国高校総体の優勝タイムは、学法石川高校3年の遠藤日向選手が出した3分47秒75だった。
彼にもメダルを獲る可能性があったということだ。これってどういうことなのか。
ちなみに、同じリオデジャネイロオリンピック男子1500m準決勝の上位の結果(準決勝1組2組を合わせた総合順位)は、
1位;ロナルド・ケモイ 3分39秒42
2位;アヤンレ・スレイマン 3分39秒46
3位;マシュー・セントロウィッツ・ジュニア 3分39秒61
だった。
世界記録は、モロッコのヒシャム・エルゲルージ選手が1998年に出した3分26秒00であるから、この3選手の記録が決勝レースの結果であれば納得できる。
どうしてこんなことが起こったのか、決勝レースの映像を探した。
レース展開はこんな感じだった。
観ていてダレるほどのスローペースでレースは始まっていた。誰が最初にギアを上げるのか、誰がレースを引っ張ろうとするのか、それを見極めようとするレース展開なんだろう、と見えた。
最初に出た選手は決勝レースを引っ張るだけ引っ張って、最後にスピードが少し鈍ったところを後ろに食いついて走っていた選手に抜かれることになる、よくある図式かもしれない。
だから、誰も出ようとしない。結局、誰も出なかった。
スローペースの展開が続く。すると最後にどうなるか。
果たして、ラスト400mに全員が勝負をかけることになった。いわゆる「ラスト1周のヨーイドン」である。これなら誰にでも勝つチャンスが出てくる。
最終コーナーを回った時点で、先頭集団は12人だった。そこからゴールまでを短距離走並みのスピードで選手たちは走った。
そして、アメリカのセントロウィッツがトップでゴールテープを切った。
トップスピードで長い距離を走る。これが1500m、中距離走の醍醐味であるはずだ。だが、決勝戦に出場した選手たちが、申し合わせたように勝つためのレース展開をしたために、この優勝タイムとなったのだ。
ここにもし、パラリンピック上位4選手たちが一緒に走っていれば、一体どうなっていただろう。おそらく、彼らは駆け引きと関係なく、自分のベストの走りを見せてくれたに違いない。
スポーツとは、自分との戦いではなかったのか。