リオデジャネイロオリンピック女子レスリング53㎏級決勝、吉田沙保里はヘレン・マルーリス選手に逆転負けを喫した。その時、吉田の連勝記録は世界大会16連覇、個人戦206連勝でストップした。
3歳の時、自宅道場で父の指導のもと始めたレスリングを吉田は30年に渡って続けてきた。まさに人生の半分近くの間、彼女は個人戦で勝ち続けてきた。だが、オリンピックという大舞台で頂点に立つ直前にそれが途切れた。
リオデジャネイロオリンピックのその後について、世間はことさらに騒がしかった。それは無理もない。吉田沙保里にとってレスリングは生きることと全く等しかった。それをやめるか否か。彼女のその後について気にならないはずがない。
そして、あの敗戦から2週間後の9月1日、吉田は現役引退を否定し、2020年の東京オリンピック出場を最大目標に現役続行することを表明した。
この中で東京オリンピックについて訊かれた吉田は
「出られるもんなら出たいです。こんな機会はない」「東京は特別ですから」
と答え、
「次のオリンピックが東京でなければ、たぶん引退って言ってたと思います」
と素直に心の裡を明かした。
レスリングを続けることだけが生き方ではない。むしろ、続けることに意義を見いだせなくなれば、新しい道を選ぶべきだろう。それが引き際に違いない。
その上で吉田は続ける道を選んだ。続けることは引くことよりも数段難しい。
あの試合に敗れて、吉田は「お父さんに怒られる」と亡き父を思い、誰の目もはばからずに号泣した。そこで一度彼女のレスリング人生は終わった。
「まだ4年あるんで、1,2年出なくてもいい」
自らがそう話すように、これからのレスリングは気負わずに。吉田自身の生きる意義を求める道に続くものであって欲しい。