森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

泣くな! 銅メダリストたち。

 

 

多くの人は日々誰かと何かを競う。その結果勝ち負けが生まれる。

100mを9秒99で走った者は10秒00でゴールした者に走る速さで勝ったことになる。それがオリンピックの陸上100m決勝であれば、その勝者には金メダルが授与されることになる。

速さだけを競ったとすれば確かにそうだが、ゴールテープはその先にもある。そのテープは100m走り終えた後に初めて見えてくることもあるだろうし、走る前から見えている場合もあるだろう。そしてメダルをもらった時点でその先にあるゴールテープを見失ってしまう者もいるようだ。

金メダルをもらって酒に酔っ払い、ガソリンスタンドで暴れて叱られて弁償させられた。それを強盗に金銭をとられたことにして国に帰ってしまった人がいたらしい。

その人は水泳の選手だった。きっと彼は速く泳ぐために人の何倍も何十倍も辛いトレーニングに耐えてきたのだろうけれど、その結果金メダルを与えられて表彰台の頂上でヒーローを演じることができたのだろうけれど、でも、自分は金メダルを外せばただの人であることを忘れてしまったのだろう。金メダリストというヒーローである自分には多少の悪ふざけくらいは許される、と、そんなふうに思ってしまったのかもしれない。

そんなこと知ったことじゃない。勝者も敗者も同じただの人である。

誰かと何かを競う先にあるゴールは一つではない。とすれば、まだ道半ば。それぞれの種目を競い終えた今は、ただ、一緒に走った人、一緒に泳いだ人、一緒に戦った相手とお互いの努力を讃え合う、それだけで十分なのではないだろうか。メダルの色だけが人を輝かせるわけではない。

リオデジャネイロオリンピックが閉幕した。

泣くな! 銅メダリストたち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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