森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

創作

眩暈 めまい。 (創作短編小説)

電車が駅に着く。ガタリと体が揺れて私は目を覚ました。少し寝ぼけている私はゆっくりとあたりを見回した。酔客で一杯だった車内はいつの間にかひっそりとしている。この車両には私しか乗っていないようだ。 電車の扉が静かに開く。冷えた夜の風とアルコール…

急性チョコレート中毒。 (創作短編小説)

「ま、おひとつどうぞ。いける口なんでしょう。今夜は御社と弊社とが、めでたく手をとりあって、新たなる旅立ちを始めようと言う門出でございます。ま、遠慮なさらずに、どんどんいって下さい。支払の方はこちらで持たせて頂きますから。はははは」 男はうす…

三日月の夕。 (創作短編小説)

寒い寒い夜だった。風がガタガタと病室の窓を叩いていた。しっかりと締め切ってあるはずなのに、部屋の暖房は全然効いていなかった。冷たい風は僕の心のぽっかりと空いたすき間に吹き込んでいた。僕と両親はばあちゃんの危篤の知らせを受け、少し前に病院に…

やまさま ~朝靄に沈む村・街~ (創作短編小説)

土曜日の朝、起きると街は朝靄に沈んでいました。 桜がやっと咲きそろい、この週末の花見を楽しみにしていたのに、木曜から続く雨。そして気味が悪いくらいの生暖かさ。条件は十分整っていました。 窓を開けると、景色がモノクロに変わっていました。道をは…

百万ドルの夜景を肴に呑む。 (創作短編小説)

いやぁ、なかなか結構な見晴らしではありませんか。 …… ええ、ええ。坪百万で? それはそれは、いい買い物をなさいましたな。いずれはこんな所に住んでみたいものです。 …… 元は池ですか。こんな山の上に池? …… ひめがいけ? ああそうですか。お姫様の姫に…