森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

Tsundoku ~読まない読書もある~

 
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読まないままに放っている本が、自室の本棚に百冊はある。
いや、ひょっとしたら数百冊を優に超えている。
机の上にも平積みで何十冊かある。
なのに、書店で興味を惹かれるタイトルの本を見つけると、それを手にレジに並んでしまう。
メルカリの「購入画面に進む」ボタンをポチってしてしまう。

そして、自室の机の上にやってきたそれらの本はパラパラとページをめくられたあと、本棚に並べられるか、机の上に山積みになっている書類や本の上にさらに積み上げられるか、のどちらかになる。

 

かつては読むつもりで本を買ったものだった。
読まない本を買うことに罪悪感を覚えたものだった。
けれど今は、本棚に並べたり、机の上に積み上げたりするためにこそ買っている気がする。

手の届くところに本を置いておきたい。
いつでもページを繰って言葉探しをしたい。
ただそれだけを思って本を求めている。

たとえ読まなくても本のたった一つの存在感が慰めをもたらすし、いつでも手に取れる安心感ももたらしている。
(アルフレッド・エドワード・ニュートン) 

 

書店の書架にびっしりと並べられた本の列を何往復もして、一生かけても読み切れない圧倒的な数の本たちを眺め、ただ眺めただけで読んだ気になれたりして、すっかり豊かな気分に浸ることができる。
書店で過ごす時間はこんな風にして、いつも過ぎる。

ジャンルも背丈も凸凹だけど、自室の本棚に立てかけた本たちの背表紙の文字をゆっくりと目でたどっていくのもまた楽しい。
その気になればすぐに読み終えてしまえるような本ばかりなのに、中身の方は数ページずつ摘み食いする程度に目を通しただけで、続きを読むのはいつかの楽しみにとっている。

 

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読まない読書もあるのだ。

積み上げた本というのは間違いなく読みたいと思って買った本。
読むという行為は、本を読みたいと思ったところから始まってくる。
なぜ読みたいかというと、その人の中にある問題が言葉を求めるから。
そして、ずうっと本を目の前にしながら、いつか読みたいと思っている。それがその人の中に変化をもたらさないはずがない。
文字を追うだけが本との付き合­い方ではない。
本を手元に置き、いつかこの本を読みたいと思­うことも、その人の中に大変豊かなものを生むのだと思う。
(若松英輔)

 

学校に通う人たちには、もうすぐ夏休みがやってくる。

始まる前にこんなことを言うのもなんだけど、たとえば夏休み最後の一週間、、、いくら長い休みであっても必ずそれはやってくる。

手つかずのまま放ったらかしだった課題作文や防犯ポスターの宿題が残っていたとしても、あと7日もあればすぐに済ませることができる、と思うに違いない。
けれどそう思ってしまったら最後、それらの宿題は手をつけられないまま夏休み最後の日まで放­置されてしまうことになるだろう。

たとえば人生最期の一週間。

もし最期が分かったとして、残り7日間で果たして何ができるだろう。何をしようと思うだろう。
新しく何かに取りかかるには無理がある。
かと言って、数日で仕上げてしまえるようなものに取り­組むことに何の意味があるだろう。

だったら何をする?

人生を振り返ってみて、あのとき言えなかった感謝だか詫びだかの気持ちを伝えるために、その人に会いに行くか、あの人と行った思い出の地を訪ねるか、それとも、自分のことを誰も知らない森の奥へ踏み入っていくか。

いや、ひょっとして、そんなときにこそ本を読むのかもしれない。
それは何も特別な本なんかじゃない。
自室の机に長い長い間積んだだままにしてきた本だ。
ようやくそれを手にとるのかもしれない。

一週間後、何冊かを読み終え、その次に読んでいた本の途中のページを開いたまま、そこに突っ伏している。

そうやって静かにその時を迎えるのもいいかもしれない。

 

机上の本の山を見ていてそんなことを思った。

もしそうなら、、、

積み上げてきた本を読み始める時期が、そろそろ近づいてきたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。