森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

震災通信(阪神淡路大震災体験記) ***25日目(2月10日)*** (柏井ビル倒壊の経緯)

 
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 26年前、わたしは神戸市兵庫区で震度7の揺れを経験しました。その記憶を日記とパソコン通信のログとで振り返っています。あの日から25日目です。柏井ビル倒壊の経緯をたどりました。

 

 

2月10日(金)
 昨日から母が帰宅していた。二人で朝食をとる。浴槽にためていたトイレ用の水が洗濯にほとんど使われてしまっていた。トイレが使えない。少し口論になる。
 朝食後、母は銀行へ住宅ローンの返済方法について訊きにいく。一年間ローンの支払いを停止してもらっても、結局利子分の約6万円は支払わなければならないとのこと、わざわざ銀行の担当の人が電話で説明してくださったが、結局返済方法は変更しないことにする。
 濯ぎが残っている洗濯物の山を母の友人宅まで車で運ぶ。
 一日休んだだけで、今日からまた次の仕事に出かける母を三宮(
※中央区)まで送る。全壊した阪急三宮駅は半分取り崩されていた。阪急会館のスクリーンが外からのぞけた。母が乗ろうとする住吉までの代替バスを待つ人の列が、300メートルほど続いていた。
 3時過ぎに帰宅。玄関でポチが出迎えてくれた。一緒について家に入って来る。すぐに銭湯に出かけるつもりだったが、しかたなく少し相手をする。出かけようとしてポチを裏口から放り出したら、噛み付かれた。
 自転車で銭湯を探す。大黒湯
(※兵庫区)が営業していた(※今も営業を続けられています)。割合空いていた。帰りに本屋を見つけ、目当ての「週刊朝日」(※当時の愛読書でした)とパソコン雑誌を買う。
 地震から数日の間は、煙草を吸うたびにベランダに出て、ぼんやりと空を眺めていた。地震直後に見た星空は不思議なくらい綺麗だった
(※当時のわたしは愛煙家でした。結婚して子供が産まれることが分かってやめました)
 今は以前のように、夜空が街明かりでほの白く見えている。オリオン座はもうはっきりと見分けられない。

 

※26年前のこの日のわたしと母とが見た三宮の光景ではありませんが、地震直後の三宮の惨状を象徴する柏井ビル倒壊について触れます。柏井ビルは地震直後、信じられないくらいの角度まで傾きました。そして次の日、三宮のメインストリートであるフラワーロードを分断するかのようにして崩れ落ちたのです。その様子を写真とレポートを引用して紹介させていただきます。

 

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柏井ビル倒壊の推移(倒壊前)

※阪急三宮駅(現・神戸三宮駅)・JR三ノ宮駅のすぐ山側にあった10階建てのビルです。実は、地震直後、このビル内のエレベーターに閉じ込められた方がいらっしゃいました。

(Wikipediaより)

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柏井ビル倒壊の推移(完全に倒壊したビル)

(Wikipediaより)

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傾いた状態だった柏井ビルは、翌朝の余震によって完全にフラワーロードに横倒しになってしまいました。航空写真の右斜め上方向にJR三ノ宮駅があります。

阪神大震災全記録1995年3月(神戸新聞社)より

自力脱出者:Y 氏(27 歳)
① 17 日午前 5 時半,三宮到着.43 分頃柏井ビルに到着.1 階の防火扉(中から開かない構造)を開放したまま,エレベーターホールに入る.
② エレベーターは 1 基.9 階のボタンを押す.エレベーターは普段の速度で上昇.
③ 大音響とともに,エレベーターが突然猛烈な速度で落下し始める.
④ エレベーターがふいにとまる.
⑤ 額に手をやると血がべったりとついてきた.
⑥ エレベーター内の明かりはすぐに消え,非常用の豆球に変わる.
⑦ 非常ボタンを押したが,反応なし.
⑧ 突然,ザーッという激しい水音がした.非常灯が消えた.
⑨ 内側からは絶対に開けることができない.再び絶望感に襲われ,死を意識する.
⑩ 必死の思いでエレベーターかごのドアをこじ開けにかかると,いままでどうしても開かなかったドアが少し開いた.1 時間ほどかかったが,ドアはなんとかこじ開けることができた.
⑪ 外側(乗場)のドアはいくら力をいれてもびくともしなかった.意識は朦朧となり,何度も気を失いかけた.
⑫ 何時間か経過.ドアの上部に左右 2 つのレバーがあるのがみえた.
⑬ 両手を使って 2 つ同時にもちあげ,足でドアをこじあけると,ドアはウソのように簡単に開いた.
⑭ エレベーターは3階と4階の間でとまっていた.
⑮ なだれおちて,ほとんど段差のなくなった階段をおり,無残にひしゃげた 1 階の入り口から外に出たとき,彼はまわりの光景が信じられなかった.いままで自分が閉じ込められていたビルが,道路におおいかぶさるように傾いていた.1 階の入り口から外へ.時計は 2 時少し前.翌日,ビルは倒壊した.

(戸塚英雄「エレベーター閉じ込め事故と人命安全対策」より)https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/50/4/50_219/_pdf/-char/ja

 

 ※下のリンクは震災当日の記録です。 

www.keystoneforest.net

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
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イラスト/バリピル宇宙さん (id:uchu5213)