森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

雰囲気と言うものの怖ろしさ

 
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神戸の小学校で起きた事件が先日来、連日マスコミ報道されています。

事件の詳細が明らかになればなるほど、当事者や関係者たちの言動が伝えられば伝えられるほど、事件の不快さがなおさら増してきます。

被害者の方はもとより子供たちや地域へ与える影響を思うと、気分が悪くなってきさえします。

 

学校教育は信頼関係で成立している部分が大きいと思います。

信頼関係が築かれているからこそ親は子供を学校・教師に預けられるのです。

学校で教壇に立つ教師には教員免許が必要です。

ところが、この教員免許は医師免許や弁護士免許と違って、ただ教員免許を持ってさえいれば授業ができると言うものではありません。

採用試験に合格するなどして地方公共団体等から任用されないと学校で「先生」として授業をすることはできないのです。

失礼な言い方になるかも知れませんが、お医者さんや弁護士さんは免許を持っているだけで「先生」です。

ところが、教員免許の場合は、学校という組織に属しているからこそ「先生」としての肩書きなり信頼なりが得られるのです。

この意味からすると、教師と学校組織と行政とは一体だと言えるかも知れません。

これまでも、教師の指導を巡って、体罰などが社会問題として大きく取りあげられてきました。

それらを苦々しく聞きながらも、わたし自身にも若かった頃、腕力や大きな声、罵声をもって子供に対した経験があります。

だから、偉そうなことを言える立場にはないのです。

けれど、どうしてもあの事件のことをスルーできなくて、もやもやしたものを抱えています。

誰かを擁護したり、非難したりするつもりはありません。

それでも、今回の事件で、学校に対する信頼が損なわれたとき、保護者の方々や児童生徒たちと教師・学校・行政(教育委員会)はどう向き合えばいいのか、考えないわけにはいきません。

ここで言う学校とは、あの小学校のことだけではないです。

すべての教師・学校・行政(教育委員会)の問題だと思います。

そのほかさまざまな形で結びついている社会集団の問題でもあると思います。

 

わたしは神戸に住み、教師をしています。

だからと言って、あの小学校でどんなことが起きたのか、それを特別に詳しく知る者ではありません。

事件のことは新聞報道で知りました。

一般に報道されている内容以上のことは知りません。

ですから、以下は、今回の事件についてではなく、普段から漠然と思っていたことをまとめて書いていきます。

何かの正論を言いたいわけではありません。 

そもそも、自分の考えが誰からみても絶対に正しい、なんて言えないかも知れないのですから。

正論(もしくは、正論だと思うこと)を口にするには途轍もない勇気がいります。

その勇気を振り絞って「間違っているんじゃないですか?」と、ひとこと注意したとして、それを素直に聞けず、逆に指摘した相手の非を探し出して攻撃を返してくる人が、多くないにせよ、いらっしゃると思うのです。

相手を非難することで、自分の非を帳消しにしてしまったような気になれる人がいるのです。

そんなことを考えていると、何か言葉にする前にそんな人と関わろうとする気持ちが萎えてしまうのです。

 

けれども、今回の事件について、少しだけ正論を言います。

今回の事件は刑事事件として扱われるべき次元のものだとは思いますが、犯罪行為として立件されるかどうかは警察の捜査を待つよりないです。

ですが、はじめに報道されたように「いじめ」であると言う認識は広く共有されていると思います。

学校での「いじめ」については「いじめ防止対策推進法」(平成25年成立)と言う法律があります。

長くなりますが、その一部を以下に引用して紹介します。

この法律では「いじめ」をこう定義しています。

「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」(同法第二条) 

 そして「重大事態」を次のように規定しています。

「学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに( 中略 )調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。」
(同法第二十八条) 

最後に「いじめ」に対する措置として次のように命じています。

「学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。」(同法第二十三条6)

「市町村の教育委員会は、いじめを行った児童等の保護者に対して学校教育法第三十五条第一項(同法第四十九条において準用する場合を含む。)の規定に基づき当該児童等の出席停止を命ずる等、いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を速やかに講ずるものとする。」(同法第二十六条)

この法律中の「児童」を「教師」と言い換えるのに何か不都合はあるでしょうか。

そう言い換えれば、

今回の事件はいじめの重大事態であり、警察と連携して対処し、加害者の出勤停止を命ずる措置を講ずるものである、と言えます。

管理職の監督責任も問われるべきでしょう。

 

それともう一つ、

伊藤美奈子(奈良女子大学教授)『子どもの問題行動と教育相談』から引用して紹介します。

ここでは、

「いじめがあるのはいけないこと」という学校現場のとらえ方がいじめの隠蔽や重大事案につながり得るという視点に立ち( 中略 )“いじめは、起こることが「問題」ではなく、あるはずのいじめを認知できない状況が「問題」である”というとらえ方への転換(が求められている)(伊藤美奈子『子どもの問題行動と教育相談』)

と指摘されています。

今回の事件が起こった背景には、この「あるはずのいじめを認知できない状況」が確かにあり、その事件を「問題」として扱わなかった誤った管理職の判断は、あきらかな「隠蔽」にあたると思います。

以上がわたしの正論です。

 

わたしたちは大・中・小さまざまな社会集団に属して社会生活を送っています。

その集団の雰囲気はそこに属している人たちが作り出すものだと思います。

居心地が良い集団か、そうでない集団か、そのどちらに向かう集団なのか、それを決められるのは、そこに属している人たちしかいないと思います。

いじめやハラスメントは、成熟したはずの大人の集団の中でも起こりえます。

それを生むかどうかは、個人の問題であると言うだけではなくて、その集団の雰囲気次第だと思います。

たとえば、強烈な発言力のある人がいて、その声の大きさで、体格の良さで、年齢の上下で、経験の豊富さで、あるいはその他いろいろな手段で、一見正しいような理屈を述べて、集団を自分の色に染めようとします。

もしも、そういう人がいたとして、それはその人がそうしようと狙った場合だけじゃなくて、どこかでその人の言動が一般常識(面白くない言葉ですが、多くの人に共有されている思慮分別と言えばいいでしょうか)を逸脱し始めた場面があったのに、それに気付かず周囲が流されてしまった場合も多くあると思います。

集団が自分の色に染まると、それはとてもとても居心地の良いものになり、その人の発言力はさらに増し、その人に口答えできない雰囲気に集団はどんどん変わっていく、かも知れません。

全体を歪んだ自分色に染めてしまうと、結果としてその行動の特異さが全体を麻痺させてしまって、特異なものじゃないような雰囲気にしてしまう、かも知れません。

そんな雰囲気に押し潰されて、その歪んだ行動の間違いを指摘できなくなってしまう人間の弱さ。

雰囲気と言うものの怖ろしさを思います。

 

あくまでも、

今回の小学校がそうだったと言いたいわけではありません。

学校を立て直すために尽力されている方々のお気持ちを削ぐような意図はまったくありません。

ただ、今回の事件に際して、わたしの心にはこうしたもやもやした思いが立ち上がってきたのです。

自分が属する集団の雰囲気が良ければ居心地の良い日々を快適に過ごせます。

雰囲気をどう変えていくかは、そこに属する一人一人の言動に大きく関わっていると言うことを強く思い、変化に敏感でありたいと言う自戒からあれこれ書きました。

今回の事件の被害者の先生、子供たち、保護者や地域の方々、そして小学校の先生方の気持ちや生活が少しでも早く平穏を取り戻されることを心よりお祈りしています。

 

 

 

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続きを書きました。

 

2019.11.3 

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2019.12.7 

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山猫🐾@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。