職場で突き指をした。
左手の指先が台に当たり鈍痛を感じたが、朝の出勤直後でほかのことに気をとられていたので、突き指のことはすぐに頭から消えた。
忘れてしまうくらいだから、痛みはほとんど感じなかった。
しばらくして、何気なく左手で髪の毛をかき上げた時のことだ。
頭が凹んでいる!
頭蓋骨の右斜め上あたりが明らかにくぼんでいる。
二度三度左手でその辺りをなでてみた。
確かに凹んでいる。
頭をなでた左手の指先の触感がそれを伝えてくれた。
でも、まったく痛みはない。
そんなバカな?
不審に思いながら、頭をなでていた左手の方を確かめてみた。
左手薬指の指先が不自然なほど折れ曲がっていた。
なんだこれ?
今度は指だ。
薬指が第一関節のところで90度内側に折れ曲がっていた。
曲がった指先を右手で持って伸ばすと簡単に元に戻った。
でも、手を放すとまたすぐにぐにゃりと内側に折れ曲がった。
痛みは感じなかった。
そう言えば、、、と、
つい先ほど、突き指の痛みを感じたことを思い出した。
これは突き指だ。
だから、たぶんすぐに治る。
元に戻る。
そう思って安心した。
で、頭の凹みだ。
大変なのはこっちの方だ。
もう一度左手で頭をなでてみる。
やはり凹んでいる。
痛みはまったくない。
内側に90度折れ曲がった薬指の指先がちょうど当たる部分が凹んでいる。
凹んでいる、、、ように感じる。
右手で頭部を触ってみた。
どこも凹んでなんかいない。
なんの異状もない。
そうか、分かった。
薬指の先が内側に折れ曲がっているせいで、それをわたしが知らなかったせいで、普段指先が感じているより数センチ分深い所に指先が当たっているように錯覚してしまったんだ。
そうに違いない。
問題なのは、90度折れ曲がった指先の方だった。
折れ曲がった第一関節から先を右手で掴んで持ち上げると、何の抵抗もなく伸ばすことができる。
痛みは全然ない。
でも、掴んでいた手を放すと、ぷにっと折れ曲がる。
自力で伸ばそうとしても言うことを聞いてくれない。
ま、すぐに治るだろう。
とわたしは思った。
痛みを感じないと言うことでわたしは楽観していた。
そしてすぐに曲がった指のことは忘れた。
机に座ってパソコンを起動させ、前日途中まで仕上げていた書類の続きの作業に取りかかった。
ところが、うまく入力できない。
「S」を担当する左手薬指が思うように動かない。
当たり前だ。
指先は折れ曲がったままだった。
痛みはないが、これでは仕事ができない。
このときになってようやくわたしは、ちょっと不味いことになったのではないか、と思い始めた。
同僚に指先を見せると、
「これ、あかんやつです。すぐに病院行った方がいいと思います」
と受診を勧められた。
上司にも相談したが、やはり受診を勧められた。
診断名は、左環指腱断裂。
マレットフィンガーという症状らしい。
マレットは木槌のこと
指先の折れた感じが確かに似ている。
ドクターは指の構造の略図を描いて説明してくれた。
黒線で描かれたのが指の骨で、骨は指の背中側の腱(水色の線)でつながっている。
わたしの薬指は、赤い×の部分で腱が切れてしまったとのことだ。
これは放置していても治らない(つながらない)。
ギブスで固定するか、手術で腱をつなぐかしかない、との見立てだった。
きれいに元通り治したいなら手術が一番。
ギブスで4,5週間固定しても腱はつながるが、元通りにならない可能性がある。
つまり、腱がくっついても第一関節から先が曲がったままになるかもしれないのだ。
要は見た目の問題だとわたしは片を付け、ギブスで治療する方を選んだ。
今日(11日)現在で、ギブスをつけて3週間が経過している。
先日撮ったレントゲン写真、経過は順調とのこと。
相変わらず腱が切れた部位の痛みは感じないが、ギブスで圧迫されて薬指全体がときによってひどく痛む。
ドクターに痛みを訴えたが、我慢できないほどの痛みでないならこのまま続けましょうと諭された。
ところで、わたしは今回のケガで、薬指を医学用語で「環指」と呼ぶことを初めて知った。
調べてみると、指の名前はいくつもの呼び方があった。
一覧にして眺めてみると、ほかの指と比べて薬指だけがあきらかに違った呼び方をしているのが分かる。
そもそも、なぜ「薬」の指なのか?
なぜ紅は薬指で差したのか?
環指の「環」は、英語を訳したものだろう。
だとしたら、なぜ薬指に指輪をはめるのか。
漢語(中国語)にいたっては「無名指」。
名前がないとは、一体どういうことだろう、、、
どの呼び方をみても、何か意味ありげだ。
ネットをみると、すでにいろいろと調べた方がいらっしゃって、いくつもの記事がまとめられている。
薬指はもともと薬師指と呼んでいたものらしい。
薬師如来像のいくつかは、薬指を少々曲げている。
なかには、薬指と親指で輪を作っている像もある。
薬師如来は薬を塗るときに薬指を使うとされているので、そこから薬指と言う呼び方が生まれたらしい。
紅を差すのに薬指を使ったのもその由来を知ってのことだろうか。
左手の薬指に指輪を着ける風習は古代エジプトから始まったものらしい。
古代エジプト人たちは、指輪の中央にある穴は将来の出来事につながる入口や扉だとし、まっすぐ心臓にまで届く静脈が走っている(と考えられていた)薬指に着けたのだそうだ。
左手の方が心臓により近いので、左の薬指は特に重要な指と考えられた。
実際に、薬指以外の4本の指の爪の生え際部分には副交感神経が密集し、薬指だけは交感神経を活発にするツボがあると言う。
交感神経は日中の活発な動作の源になる神経だ。
そして、名前がない理由。
実は、薬指を「無名指」と呼ぶのは中国語だけではないようだ。
フィンランド語では「nimetön sormi(ニメトン ソルミ)」 と呼ぶ。
nimetön は「名無し」の意味だから、やはり「名無し指」と言う意味になる。
ほかの言語にも、同様の意味で呼ばれる薬指があるそうだ。
これは、悪霊に名前を呼ばれないようにするためだと説明されている。
魔法をかけるには、その対象物の名前を知り、呼ぶ必要がある。
だから、大切な指には名前をわざと付けなかったのだと言う。
薬指の呼び方について、ここでは、主に以下の記事を参考にさせていただきました。
・耳寄りな心臓の話(第29話)『心臓に直結した薬指』 |はあと文庫|心日本心臓財団刊行物|公益財団法人 日本心臓財団
・魔法の指
・冬場は爪もみで健康対策をしてみよう
・指輪の歴史とはめる手や指のもつ意味/貴金属の修理屋【プログレス】
どの由来をとっても、薬指を古くから特別な指だと考えてきたことに違いはなさそうです。
改めて、薬指をまじまじと眺めます。
ちなみに、わたしの左手の薬指には指輪はありません。
結婚はしています。
結婚指輪も持ってはいました。
ホテルのチャペルで式を挙げるとき、神父さんの前で指輪交換をしないといけないので、慌てて用意しました。
数百円で買ったおもちゃの指輪です。
人前で指輪を着けたのは結婚式のときだけでした。
たぶん、おもちゃ箱の底に今も眠っていると思います。
あ、奥さんの分は、おもちゃじゃなくて、ちゃんとした指輪を買いましたよ(^_^;