森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

歩きスマホが招いたイノシシ親子の悲劇…

 
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気づくと駅のプラットホームの一番端を歩いていた。

電柱にぶつかりそうになって慌てて避けた。

赤信号に気づかず車道に飛び出してしまった。

瞬時に心が冷えるほどの衝撃が走る…

歩きスマホが原因です。

少し前の朝、出勤時のこと。

わたしは通勤時、ヘッドフォンでスマホの音楽を聴いています。

家を出てすぐにヘッドフォンの電源をON。

スマホの音楽アプリのアイコンをタッチして今日の音楽を探します。

MINMI,Mokey Majik,moumoon,Mr.Children,MY FIRST STORY…と画面をスクロールしていって、、、

じゃ今朝はMonkey Majikにしよ。

と決めて顔を上げると、すぐ前に大きな獣がいました。

大きいのが1頭と小さいのが何頭か。

イノシシでした。

場所はわたしの家から100mほど歩いた小道。

早朝だし、めったに車が通らないので、すっかり油断していました。

見通しの良い一本道なので、歩きスマホをしていなければ、遠くからでも気づけたはずでした。

わたしが出くわしたのは、おそらく母イノシシとその子供たち。

あとで数えてみたところ、子イノシシは4頭いたはずです。

こんなにも無用心に近づいてくるニンゲンを見て、イノシシ親子は不思議に思ったことでしょう。

 

このニンゲン、なにしよ思とんやろ?

ちっとも自分らのこと怖がってへん。

なんで近づいてくるんやろ?

 

イノシシたちのリーダーの母イノシシも判断に迷ったのでしょう。

まったくイノシシの存在に気づかないわたしを威嚇するわけでもなく、襲おうとするわけでもなく、ただ足を止めて待っていたようです。

イノシシに気づいてわたしはすぐに立ち止まりました。

わたしの真横に、手を伸ばせば届くほどの位置に母イノシシが佇んでいました。

訝しげにわたしを見ています。

少し小柄な子イノシシがピクリと後ずさる足音をさせました。

わたしが顔を上げたのに反応したのだと思います。

前にも後ろにも子イノシシがいました。

わたしはイノシシ親子の群れのど真ん中に立っているのでした。

あかん、まずい。

わたしの心臓は瞬時に凍りつきました。

が、どうしよう…

逃げようか?

とまず思いましたが、こんなに至近距離にイノシシがいて、そいつに背を向けて走って逃げることなんかできっこない。

たちまち追いつかれて背中をやられる。

そう思いました。

じゃあ、どうする?

わたしの頭に浮かんだのは、しばらく睨み合いを続ければ、相手の方が折れてくれる、そういう考えでした。

こいつらもきっとニンゲンが怖い。

無用な争いなどしたくないはず。

もしかして向かってこられたら、足蹴り?

数年前までわたしは空手を習っていました。

どれくらい役に立つか分かりませんが、そのときのわたしにはこれしか武器がありませんでした。

睨み合いは数秒ほどだったと思います。

足蹴りを出しやすいようわたしが少し腰を落とした動きに1頭の子イノシシが反応しました。

小走りで逃げ出したのです。

結果的にそいつの動きにわたしは助けられました。

母イノシシがそいつを追いわたしの後方へ走っていきました。

ほかの子イノシシたちはものすごい勢いで前方に向かって逃げていきます。

少し距離が開いたのを確認して、わたしはイノシシ親子を写真に撮りました。

今回の事件を引き起こした因縁の歩きスマホのスマホで撮りました。

 

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上の写真がわたしの後方に走っていった母と子です。

ん?

写真で見ると、母イノシシの方が先にいます。

一番逃げ足が速かったのは母イノシシだったのかもしれません。

自分が先に逃げて足の遅い子イノシシを待っているように見えます。

 

下の写真は前方に向かって逃げていった子イノシシたちです。

もうウリ坊の白い縞模様はなくなっています。

こっちは3頭です。

わたしがこの子たちの後を追うように歩いていくものだから、ちらちらとこちらを振り返りながら、どんどん母イノシシと離れて別の方へ逃げていくことになりました。

わたしはただ駅に向かってるだけなんだけど。

この写真の先で小道は右に折れるのですが、その曲がり角で3頭のうちの2頭はガードレールをくぐって左側の林に逃げ込みました。

もう1頭はその動きに出遅れ慌てて右へ、道なりに曲がってしまいました。

 

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わたしはイノシシ親子との対峙で遅れた時間を取り戻すべく急ぎ足で駅に向かいます。

みんなとはぐれ、ひとりぼっちになってしまった子イノシシは、恐ろしいニンゲンがしつこく自分を追いかけてくると思ってどんどん逃げます。

下の写真の右手向こうから別のニンゲンがやってきました。

犬を散歩させています。

子イノシシは前も後ろもニンゲンに挟まれて万事休す。

必死の形相でこちらを振り返った瞬間です。。。

この後、この子イノシシは写真左手の道をさらにさらに逃げていきました。

脅かす気は全然なかったんだ。

ごめん。

 

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次の写真は、歩きスマホ事件から数日経った帰宅時のものです。

写真では1頭しか写せませんでしたが、このときは2頭いました。

小柄な2頭でした。

路面に落ちていたドングリを貪るように食べていました。

 

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そして、また数日後。

続く2枚の写真は出勤時のものです。

バス道を挟んだ向こう側の林にいました。

横っ腹を見せている1頭の方が大きくて、もう1頭のこちらに顔を向けている方はやや小柄でした。

林の中を歩き回って食べ物を探しているようでした。

おそらくあのときの親子です。

 

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さらにしばらく歩くと、見つけました。

その日は燃えるゴミの日でした。

ゴミ袋に入れて捨てられていた生ゴミをきれいに食べてしまっています

さきほど出会った親子連れの仕業に違いありません。

 

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ふと、思いました。

生ゴミを食べた親子連れは、歩きスマホ事件の日にわたしの後方に走っていった親子で、夜出会ったドングリを貪り食っていた2頭の子イノシシは、ガードレールをくぐって林に逃げ込んだあの2頭ではないのか?

最後の最後、1頭だけになってどこかに逃げていったあの子イノシシはその後どうなったんだろう?

わたしの不注意な歩きスマホは、あの朝、イノシシ親子をバラバラに引き裂いてしまったのではないのか?

必死の形相でわたしを睨み返したあの子イノシシは、お母ちゃんやお兄ちゃん、妹たちと離れ離れになって一体どこへ行ってしまったのかな…

ごめん…

歩きスマホの底なしの恐ろしさを改めて思い知りました… 

 

 

そう言えばイノシシのこと、以前記事に書いたなぁと思って見返してみると、以下のように、こんなに何度も書いていました。

 

創作短編小説の中にも何度かイノシシを登場させていました。

暗くなると山からイノシシが下りてくる。

白い斑点を背負ったウリ坊が短い尻尾を振りまわしながら、母イノシシに置いていかれないよう必死になってついていく。

里に下りてくるイノシシはお腹をずいぶん空かせているから気をつけないと危険だ。

灯りを消したテントの窓をそっと開いてそいつらを観察しよう。

(「小石のように」 これから生まれてくる君への手紙)

 

もう一つ。

イノシシなら、ずっと下った駅の辺りにも出没するそうですから。

……

そうそう、そうでした。ここに来る道すがら、やたらあちこちに看板が立ってましたな。「餌をやらないで!」っていう看板が。例の石碑の横にも立っていました。

……

そうですか、子連れで来ますか。ウリ坊って言うらしいですな。わたしも一、二度出会ったことがありますよ。そりゃ可愛いもので──。

( 百万ドルの夜景を肴に呑む。)

 

この記事ではゴミを荒らしたのはカラスかもしれないと書いています。

ある時季になるとイノシシも犯行に及ぶことがあります。ですので、燃えるごみの日はあまり早朝にごみ出しをすると、大変なことになる場合があります。 山猫家がパッカー車がやってくる時間に合わせてごみ出しをするのは、こうした理由からでした。 ですが、今は食べ物が山に豊富にある時季なので、イノシシの犯行ではないと思われます。 犯人はカラスに間違いありません。

(散乱するごみと個人情報、ごみは宝の山か。)

 

山道はニンゲン専用ではありません。

歩いて帰ると、途中で夜の街明かりを眺めることもできるし、運動にもなるし、たまにイノシシに遭うこともできるし、魅力たっぷりの山道です。

( バスの定期券を持っているのに、バスに乗らずに歩いている理由。)

 

さて、山中でもし遭難したら、食べられるのはどれでしょう。

さて、ここで問題です。

山中でもし遭難したら、食べられるのは、どれかな、、、

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ほかにアケビもたくさん落ちてましたが、みんな食べられていました。

食べたのはイノシシかな?

(六甲山頂より紅葉谷道を通って有馬温泉へ下る気楽な山歩き、のはずだったけど。)

 

あとから山にやってきたのはわたしたちニンゲンです。

山猫(わたし)の家は山の傾斜地にある。

辺りの山が住宅地として拓かれたのは、つい五十年ほど前のこと。

それまでは、イノシシやサルたちが棲む雑木林だった。

だから、イノシシたちは平気で家の近辺を闊歩している。

”あとからやってきて偉そうにするな” と、きっとイノシシたちは思っているはずで、先日、山猫がイノシシに遭遇した事件は、実は、イノシシが山猫に遭遇した事件であったはずだ。

(イノシシの森に群生するふきのとう。)

 

イノシシは保護動物に指定されていて、基本的に捕獲はできないそうです。

うちの周辺では野良イノシシが我が物顔に歩き回っているのだ。

これはいったいどういうことだ!?

そこで、怖くて夜間外出できないので野良イノシシを何とかしてほしい、と区役所に訊いてみた。

いや、正しくは、区役所が発行している広報を読んでみた。

まず、捕獲について。

イノシシは「鳥獣保護および狩猟に関する法律」で保護動物に指定されており、基本的に捕獲はできない。

ただし、噛み付かれた、追いかけられて牙で突かれたなど、直接的な被害が出た場合は有害鳥獣として捕獲することが可能、とのこと。 

(野良犬は消えてしまったが、野良イノシシはたくさんいるのだ。)

 

どうやら、わたしの自宅はイノシシ親子のテリトリーのど真ん中にあるようです。 

自宅まであと10メートルほど。

すぐその先の角を曲がれば家の外灯が見えてくる。

というところでイノシシに出会った。

夜8時。

月明かりがそいつの背中をほのかに照らしていた。

家の前は私道になっていて道幅は車1台がやっと通れるくらい。

イノシシとすれ違うには狭すぎる。

自宅は山の中腹にあってこういうシチュエーションはとりわけ珍しいことではなかった。

が、困ったな。

(夜道でイノシシと出会ったら)

 

六甲山麓に住むわたしたちにとって、イノシシはこれほどまでに身近な生き物なのだということを改めて感じました。

先日テレビニュースで、白昼、男性がイノシシに襲われ足に大怪我をされた瞬間の映像を観ました。

突然体当たりしてきて足をガブリ。

衝撃的でした。

足蹴り?

そんなもの、絶対勝てっこないです。

逃げるしかないです。

それより何より、、、

 

歩きスマホ、絶対にダメです(^^; 

 

 

 

 

 

 

 

 

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山猫@森の奥へ

似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。