森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

父親と飲む、息子と飲む。

 
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父親と飲む。

もちろんアルコールを。

この場合、ビールよりは日本酒が合いそう。

最初のうちは注ぎ合うんだけど、ビールをタプタプタプタプと注ぐより、日本酒をクッと注ぐ方がすぐに済む。

なので、なんとなくそっちの方が良さそう。

用意したのは、辛口の地酒で吟醸クラス。

酒屋の店主におススメを訊いて、このときのために買ってきたもの。

肴は魚。

前の晩に干しておいたイカの一夜干しを炙ったのと、鮪と鮭と鯛のお刺身、それと白菜の浅漬け。

キュウリの酢の物に小あじの南蛮漬けもあったらうれしい。

もちろん〆は鶏ゴボウの釜飯。

ああ、うまい。

父は酸っぱいものが好物でした。

 

父親と飲む。

良いですね。

父はわたしが二十八のときに亡くなりました。

父が勤めていた会社は当時五十五歳が定年で、父が退職金を手にしたのは寝たきりになったベッドの上でした。

父は脳腫瘍でした。

一度手術して腫瘍を取り除き日常生活ができるまで回復しましたが、一年後に再発しました。

それからは腫瘍が激しく脳を侵蝕し、記憶力は日に日に衰えていきました。

退職金の札束もただの紙切れにしか見えなかったようです。

三十年以上ひたすら働いて働いて、あと少しで退職、という歳になって発病。

あっという間に病は命を蝕んで、退職金も、退職後の第二の人生も吹っ飛ばして父は逝ってしまいました。

父が亡くなった歳と同年代になり、わたしは父の無念を痛いほど思います。

ああ、そして何より、父は飲めない人でした。

わたしが故郷を離れて街で働き始めてからでも、帰省した際に一緒に飲む機会はいくらでもありました。

でも、故郷の家の食卓にアルコールが添えられることはありませんでした。

父がどれほど長生きしていたとしても、どのみちわたしは父と飲むことはなかったのです。

 

 

息子と飲む。

良いですね。

長男が大学生になりました。

じゃあ今度は息子と飲む、これでいこう。

と思って、長男Mにススメてみたら、ビールも日本酒も少し舐めただけで、いらない、と。

ああ、残念、飲めないんだ(^^; 

父から一世代とんで、わたしの息子にはアルコールを受けつけない体質が伝わったようです。

 

 

実は、息子はもう一人いて、こいつが次男K、高校生。

こっそりビールを舐めさせてみたら、おいしい、と。

あと数年すれば、大丈夫かな。

一緒に飲めるかな。

Kはシシャモが好物です。

幼い頃のことですが、好物のシシャモが食卓に並んだのに、なかなか食べ始めません。

見ると、せっせとシシャモを箸で突っついています。

卵の部分だけを取り除けているのです。

一匹目が終わると二匹目、三匹目、と。

きれいに卵の部分だけを取り除けていきました。

そして、取り除けた卵を集めて、ご飯の上にたっぷりと乗せました。

宝物や~、と笑顔で言い、Kはやっと食べ始めました。

魚好きです。

期待できます、かなり。

Kは父親と飲めるのです。

少し、羨ましい。

 

 

 

今日の記事は KONMA08さん (id:konma08) の記事に書かせていただいたブックマークコメントを元にしました。

いつも、楽しく読ませていただいています。

ありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

  
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山猫@森の奥へ
似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。