森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

季節の迷子、10月の蝉。

 
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三連休二日目の朝。
久しぶりの快晴。

 

今日は暑くなりそう。
と思ったら、ツクツクボウシが鳴きだした。

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いくら暑いと言っても、今日は10月だぞ。

彼の鳴き声は少し頼りない。
鳴いているのは彼一匹のようだった。

 

10月の蝉。

彼は果たして寝坊したのかな、それともひと夏分、早起きしてしまったのかな。
どっちだろう。

 

時計を持たない彼らにとって、それはどうだっていいことかもしれない。

ただ、季節はずれのこの時季に鳴く彼の声を聞いて思ったのは、彼女がこの近くにいるかどうかという心配だった。

せっかく頑張って鳴いているのに、もう10月だ。
彼につきあって季節の迷子になっている彼女がいるだろうか。

彼は一人の彼女にも出逢えないかもしれない、それが気になった。

 

「八日目の蝉」という映画(原作、角田光代)があった。

七日しか生きない蝉の八日目の世界に思いをいざなう印象的なタイトルだった。

そのタイトルにつられて、今朝のツクツクボウシの声を聞いたときは、夏を謳歌するはずの蝉が鳴くさみしい10月を思い、ちょっとセンチメンタルになった。

 

 

ところが実は、蝉の寿命が7年というのは根拠のない話らしくて、蝉の種類によって寿命は違うし、同じ種類でも幼虫が羽化するまでの期間は環境によって違ってくるそうだ。

だから、寝過ごすと言うか、土の中ですごす時間は長くなることもあるらしい。
けっこう融通がきくみたいだ。
とすれば、彼だけが季節の迷子になっているわけではない。

考えてみれば、小学校は6年間、中学校は3年間みたいに、蝉の幼虫が土の中にいる期間が正確に決まっていれば、何年かに一度しか同じ種類の蝉が羽化しなくなる。

 

それと、蝉は成虫になってから7日で死んでしまう、というのも俗説らしい。
数週間から1,2ヶ月も生きることがあるそうだ。

だから、今朝鳴いていたツクツクボウシはこの夏に生まれて、それからずっと鳴き続けてきた長寿の蝉かもしれない。

彼女に出逢えないどころか、もう何度も恋を繰り返してきた遊び人の彼かもしれなかった。

 

なんてことだ。

 

 

夕方、ツクツクボウシはもう鳴いていなかった。

たとえ長生きした彼であったとしても、一人で鳴く秋はやっぱりさみしいだろうな。

 

 

 

 

 

  
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