森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

「閻魔様と百万回死んだ男。」「礼儀正しい社会の作り方。」 (創作超短編小説2編)

 
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閻魔様と百万回死んだ男。

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一人の男が死んだ。

その魂は亡骸から抜け出て閻魔様のところへ飛んでいった。

閻魔様は男の魂をしげしげ眺めると意外なことを言った。

「お前は特別に選ばれた魂だ。これから何度死んでも、別の生き物になって蘇らせてやろう」

「さて、次は何に生まれ変わりたい」

閻魔様から問われた男が答える。

「次は女に」

「女は別の生き物か? まあ、それもよかろう」

閻魔様が指を鳴らすと男の魂は霧のようにぼやけて消えていった。

 

一人の女が死んだ。

その魂は亡骸から抜け出て閻魔様のところへ飛んでいった。

「次は何に生まれ変わりたい」

閻魔様から問われた女が答える。

「次は猫に」

 

一匹の猫が死んだ。

その魂は亡骸から抜け出て閻魔様のところへ飛んでいった。

「次は何に生まれ変わりたい」

閻魔様から問われた猫が答える。

「次は虎に」

 

一匹の虎が死んだ、、、

 

男の魂はこの世界に存在するすべての生き物に生まれ変わって、その一生を生きてきた。

最後に生まれ変わったのは、はるか昔に絶滅したと思われていたのに、ただ一頭だけ残ってしまった恐竜だった。

もう他には生まれ変わっていない生き物はいなかった。

 

一頭の恐竜が死んだ。

それが最後の恐竜だった。

その死は最初に男が死んでからちょうど百万回目だった。

魂は亡骸から抜け出て閻魔様のところへ飛んでいった。

「次は何に生まれ変わりたい」

閻魔様から問われた恐竜は少し考えてから、静かに答えた。

「次は、閻魔様、あなたに」

それを聞くや閻魔様はにっこりと笑った。

「その言葉を待っていたのだ。ようやくこの退屈きわまりない仕事から抜け出せる」

 

 

 

 

礼儀正しい社会の作り方。

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道行く人々はそれぞれお互いに、向こう側からやってくる人たち、すれ違う人たちみんなに、丁寧に会釈を交わして挨拶をしている。

こんにちは。
まあ、お元気?
どうもどうも。
今日は良いお天気ですね。
ご機嫌よう。
こんにちは。

車を運転している人も徐行して進みながら、対向車のドライバーに手を挙げたり、クラクションを鳴らしたりして挨拶している。

 

突然、ひとりの子供が母親の手を振り払って元気良く駈け出した。

子供ははしゃぎながらするりするりと人波の中を走り抜けていく。

子供の嬉しそうな笑い声があたりに響き渡った。

 

その姿を街角に備えてある監視カメラが捉えた。

そして、子供の無礼に報いるためにレーザー光線を発射した。

子供はばたりとその場に倒れる。

ご愁傷様です。
このたびは本当にお辛いことで。
気を確かにお持ちください。
ご愁傷様です。
ご愁傷様です。

あたりを歩いていた人たちは、残された母親の方に向かって深く頭を下げると、一斉にそう挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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