森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

山猫ノート 阪神淡路大震災記 7

*その日の日記。

だが、その日に書いた日記ではない。数日後にその日を思い返して書いたものだ。

 

1月17日(火)
 不気味な地響きを感じて目がさめた。直後、激しい揺れに襲われる。前夜軽い揺れを感じていたのですぐに地震だと気づいたが、だからといってどうすることもできない。部屋中のものすべてが大きな音をたててダンスしていた。
 まだ眠りの途中だった僕は、布団にくるまってやりすごすしかなかった。真っ暗な中、何かが降って来る。身体を丸くしてとにかく揺れがおさまるのを待った。
 午前中、いろんなことがあった。
 昼過ぎ、近所に住むSさん(大学に入って一人暮らしをしていた時にずいぶんお世話になった親戚)とH先生(初任校時代の同僚、先輩)の家を訪ね、安否を確かめる。みんな無事だ。
 弟の家に電話する。奥さんのA美さんが出た。西区は被害はほとんどなく、無事とのこと。弟は東京に出張中で留守、明日神戸に戻ってくる予定。
 長田から兵庫にかけて、あちらこちらで火事になった。昼前から煙が出ていたのが鎮まらず、次第に広がっているとのこと。近所の何家族かは湊川中学校に避難していった。
 夕方、会下山に登り、火事の様子を見る。野焼きのよう。ヘリコプターが上空を何機も旋回している。経験したこともないのに、空襲のようだと思う。夜空には満月。
 火事はわが家の方角には広がってこないように見えた。夜は寝ずに家で過ごすことにする。
 日が暮れると、家の中は蝋燭の明かりだけが頼り。夕食は、カセットコンロで湯を沸かし、うまかっちゃん2つとキャベツを丸かじりする。蛇口から水は出ないが、汲んできていた須磨寺の霊泉がポリタンクに半分以上残っている。缶ビールと缶ジュースも箱で買ってきたのがまだかなりある。しばらく飲み水は保ちそう。浴槽に張ったままにしていたお風呂の水がある。トイレの水にはこれが使えた。
 万が一の時に備えて、貴重品をカバンに詰める。
 中学の頃から断続的につけていた日記帳3冊と、小説を書き留めていたノート、レポート用紙の類。写真と年賀状の束、そしてパソコンの外付けハードディスクと家の権利証の類。詰め込んだのはこれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

  
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