森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

バレーバスケ部奮闘記 2

今日、春高バレー地区予選最終戦があった。

この試合に勝てば一ヶ月後に県南部で行われる県大会に出場できる。あと一つ。目標まであと一つ。

だが、その一つ前の試合からセッターの動きに精彩がなかった。

トスが思ったところに上がらない。得意のサーブが決まらない。

そして、そのミスを引きずっている。

なにより表情が暗かった。じわじわとその雰囲気がチームメートに伝わっていった。いつもチームを和ませる役どころだったからなおさらだった。

ミス自体は大したことはない。慰めではないが、誰だってミスをする。いけないのは、そのミスが次のミスを呼んでいることだ。

1セット目も2セット目も、その終盤、点差が4、5点というところでサーブ順が回ってくる。ここでエースを決めれば流れを引き戻せる。否が応でも力が入る。

そのセッターには一年前の春高地区予選でも、このタイミングでサーブが回ってきた。そのときは、サービスエースを連続で奪い、劣勢だった試合の流れを変えた。

よりによって、同じようようなタイミングでサーブ順が回ってくる。表情がかたい。意を決して打ったサーブはネットに当たって自陣のコートに落ちる。

流れを変えることができず、そのまま2セットを連取され、地区予選での敗退が決まった。

そのセッターが山猫の子供、山猫Mだった。

 

どこにも寄り道をせず、山猫Mはまっすぐに帰宅した。

一言も口をきかない。こちらもかける言葉が思いつかない。

「風呂湧いてるぞ」と伝えると、うん、と答えて自室に向かった。

食事のときもほとんどしゃべらなかった。ご飯のお代わりもせずに早々に「ごちそうさま」と手を合わせて言い、すぐに自室に戻っていった。

 

バレーボールとバスケットボールの写真を撮ろうと思いたち、山猫Mの部屋にボールを借りに入った。

山猫Mはベッドに寝転んでスマホの画面を見ていた。

「悔しいか」と訊くと、うん、と応えた。

「頑張ったからこそ、悔しい。頑張らなかった奴にはこの悔しさは分からない。去年の春高の県大会1回戦であっさり負けた。あのとき悔しかったか」

との問いかけに、ううん、と首を振って答える。

「あのときの何倍も努力したから悔しい。悔しさは努力に比例する。頑張れば頑張るほど負けたときの悔しい思いは強くなる。悔しい思いをしたくなければ、頂点に立つか、一切努力しないかだ」

でも、たいていの人は努力をして、精一杯頑張って、その結果悔しさを味わうのだ。

と、自分にも言い聞かせるように言い添えた。

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