森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

いつか風になるわたしの魂はどこへ還っていくのだろう。

 
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故郷という土地があっても、帰る家がなければ、そこにわたしの居場所はありません。

前回の記事に、そう書きました。

 

 

故郷とは、

住み慣れた家のことだろうか。

家で待っているかもしれない両親の思い出だろうか。

その両親に愛されて育ったあの頃のわたしが今も笑っている場所だろうか。

一緒に遊んだ友達、詩を書く楽しさを教えてくださった先生、初めて好きになった女の子、けんか別れしたままの幼馴染、、、

そんな記憶がつまっているタイムカプセルなんだろうか。

 

故郷の思い出は、

家とともにあるのだろうか。

故郷の山や川に宿っているのだろうか。

家がなくなってしまえばどこに行くのだろう。

山や川が変わっていけば消えてしまうのだろうか。

目を閉じても、あの子の顔が思い出せない。

もう、あいつの声が聞こえてこない

 

故郷の山に暮らしたのは十八まで。

その倍近く生きてきたこの街が、今はわたしの故郷。

高校を卒業してから一人暮らしを始めたこの街。

住んだ時間は故郷よりもこの街の方がはるかに長い。

この街で仕事に就き、この街で酒を飲み、笑って飲み泣いて飲み、この街で人を好きになり、この街で家族を持った。

なのに、故郷を出てきたわたしはずっと旅の途中にいる。

そんな気がしている。

そしてこの街は、今度はわたしの子供たちの故郷になった。

わたしの故郷と子供たちの故郷とは別々の場所にある。

いつかこの街を出て行く子供たちは、この街を、この家を、わたしのことをどんなふうに思い出すのだろう。

 

 

いつか風になるわたしの魂はどこへ還っていくのだろう。

 

 

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山猫@森の奥へ
似顔絵はバリピル宇宙さん (id:uchu5213)に描いていただきました。