森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

空知らぬ雪 あるいは、空に知られぬ雪

 
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空知らぬ雪 あるいは、空に知られぬ雪

という言葉があります。

空のあずかり知らぬところで降る雪、のようなもの。

つまり、舞い散る桜の花のことです。

桜吹雪という言葉があるくらいです。

雪と桜の散りゆく様子は本当によく似ています。

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空知らぬ雨 あるいは、空に知られぬ雨

という言葉もあります。

空が降らしたわけではない雨、つまり、涙のことです。

 

空知らぬ風

これはわたしの造語です。

空から吹いてきたのではない風。

その風は、辛い思いを言葉にせず、すべて飲み込んで、それでも堪えきれずに漏らすため息です。

空知らぬ雨も、おそらく、怒りや辛さ、苦しみ哀しみをどこにもぶつけようがなくてこぼした涙だと思います。

空知らぬ風は空知らぬ雨が降りしきるなかを吹いていきます。

 

そして、その風が吹き散らすのは桜の花、それも満開の桜がいい、と思いました。

山々に咲く満開の桜が一斉に散りだしたらさも壮観だろう。

そう思って、その場面を描きたくて物語を考えました。

 

www.keystoneforest.net

 

 

 

ミチコ(id:fukaumimixschool)さんが、その作品『空知らぬ風』に触れてくださいました。

nagi1995.hatenadiary.com

 

咲の絵も描いてくださいました。

 

咲は拙作『空知らぬ風』の主人公・正吉の最初の妻でしたが、肺の病で若くして死にます。

満開の桜を背にして、舞い散る桜の花びらのなかに咲は立ち尽くしていました。

両手で耳をふさいでいます。

大きく目を開いてこちらを見据えています。

その目には涙が浮かんでいるようです。

口は真一文字に結んでいます。

何も聞かない、何も話さない、ただあなたを見ている。

ただあなただけを見ている。

そんなふうに感じました。

咲はドキリとするほど美しい女性でした。

 

わたしが文字だけで描いた咲は、ミチコさんという読み手と、ミチコさんという描き手を得て、はっきりとその表情を形に現しました。

そこに立っているのはただの薄幸な女性ではありませんでした。

 

ミチコさん。

咲を描いてくださったんですね。

ありがとうございます。

渦巻くように舞い散る桜の花びらは咲の涙ですね。

空知らぬ風は咲のため息です。

正吉にかけたい言葉も涙も堪えて、代わりに吐いた深いため息です。 

 

作品を読んでもらったこと、感想を書いてもらったこと、それを記事にしてもらったこと、ミチコさんが復調されつつあること。

それらあれこれがとてもうれしくて、ドキドキしながら、わたしはこんなコメントを書き込みました。

 

ミチコさんは体調を崩されてしばらくブログから離れておられましたが、つい先日、新しい記事をアップされたばかりでした。

fukaumimixschool.hatenablog.com

 

第18話のなかには、わたしが聞きたいとリクエストした双子の少女たちのお話もでてきます。

ミチコさんが持っておられるアイデアの豊かさ、サービス精神の旺盛さに、わたしはもう泣き出しそうでした。

nagi1995.hatenadiary.com

 

今回のミチコさんの記事からたどって『空知らぬ風』を読んでくださったナマけもの (id:flightsloth)さんからコメントをいただきました。

5回に分けてアップした記事をわざわざ1つにまとめて、全文を縦書き表示にして読んでくださったとのことでした。

ナマけものさんにお返ししたコメントにわたしはこう書きました。

  

すぐそこに春が来ていますね。

時が流れるからこそ冬が過ぎ、春が来て花が咲きます。

さらに時は流れ、その春も過ぎ、花は散ります。

人の思いとは関係なく季節は移っていきます。

そんなことを思いながら書きました。

 

わたしたちは自然の一部。

時を戻したくて、失ったものを取り返したくて、どれほど強く願っても想っても恨んでも苦しんでも、その思いとは無関係に、ただただ季節は移っていくばかりです。

ミチコさんが描いてくださった咲の目はそれを静かに見据えているように感じました。

 

 

 

あまりに手前味噌な記事になりましたが、

ミチコさんにお礼を伝えたくて、恥ずかしさを堪えて書きました。

 

読んでいただきありがとうございました。

 

 

 

  

 

  
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