森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

父の墓参。

車で片道3時間弱。

父の墓参りに行ってきました。

墓参りを済ませておかないと新年が迎えられないという母の言葉を断れず、二人で往復5時間半ほどのドライブをしてきました。
到着したのは午前10時前。
父の墓は父の実家を見下ろせる山の中腹にありました。

実家のすぐ先には向かいの山がそびえています。

山と山に挟まれた傾斜地にようやく数軒の農家が暮らせるだけの土地を先祖たちは切り拓きました。

父や父の兄弟たちや祖父母が暮らしてきた土地です。

西側を山に遮られて日照時間はそれほど長くはありません。

川は山の麓を流れています。

田畑に使う水はため池を作ってまかなっていたはずです。

ご先祖さまの墓誌に名前がある父の兄の一人はその池に落ちて亡くなりました。

 

この日の気温は5度。
風がないので寒さは感じませんでした。

向かって右側に先祖代々の墓、左側が父の墓。

ご先祖さまのお墓に比べると父の墓はまだ真新しいです。

でも、もう30年が経ちます。父が亡くなってから。

わたしは今年、父が亡くなったときの年齢を超えました。

わたしは父よりも歳をとってしまったという現実に今更ながらに気づきました。

 

道中、運転するわたしに助手席の母はあれやこれやの思い出話を延々と話し続けました。

母の話題には、今とか明日とかがあまり出てきません。

話すのはただただ昔のことばかりです。

父が母の夢枕に出てきて二人で一緒に山に山菜を採りに行ったこと、幼いわたしはいつも決まって夜中に高熱を出すのでかかりつけの医者を随分と困らせたこと、仕事で疲れている父の眠りを妨げないよう夜泣きするわたしを負ぶって母は暗い夜道を歩いたこと、、、

ひとしきりしゃべり終え、しばらくすると、

母はまた同じ話を最初からもう一度し始めます。

この前お父さんが夢に出てきてね。一緒に山で山菜を摘んでいてね、、、

と。

 

わたしの子供が何年生になったか尋ねます。

何度も何度も尋ねます。

先月一緒に食事したとき、子供にも直接訊いたはずなのに。

その都度わたしは、次の春に中学を卒業すると伝えます。

そう、そんなに大きくなったの?

卒業のお祝いしないといけないね。

と母は初めて知ったように喜びます。

母の記憶は途切れ途切れです。

 

ああ、これで良い正月が迎えられる。

父の墓を掃除し終えて、母はそうつぶやきました。

 

山鳥が鳴いています。
麓の川の水音がこんな山の中腹にまで聞こえてきます。

山と山に挟まれた狭い土地を冬の太陽が照らしています。

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