森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

山猫、青春18きっぷで東京へ行く 5

島田から乗った熱海行きの普通電車が途中の富士駅で4分遅れになった。乗り入れている身延線からの電車の到着を待っての発車だったからだ。仕方ないが、よりによって次に乗り換えをする熱海駅での乗り継ぎ時間は4分しかない。今回の旅でこれが一番短いのに。

富士駅という名前なので当然車窓からは富士山が見えるはずだが、この日のお天気はいまひとつ。どこにもそれらしいものは見えなかった。

そんなことより、乗り継ぎだった。熱海までの区間で少しばかり速度を上げて調整してくれればなんとかなるだろう、と期待した。が、それは甘い考えだったようだ。

熱海が粛々と近づいてくるのに、遅れを取り戻そうと電車が急ぐ気配は全くなかった。

車内アナウンスは、今走っているこの電車の熱海駅への到着が遅れることには触れるが、次の東京方面への乗り継ぎは5番ホームの快速アクティを利用して欲しい旨を淡々と伝えるだけで、快速アクティが発車を待ってくれるかどうかについて教えてくれない。みんなそれが知りたいと思うんだけどな。

この電車を逃すと、明るいうちに東京駅に着くのは難しくなる。

さて、山猫たち青春18きっぷ旅行者の集団を満載した普通電車が熱海駅3番ホームに到着したのは15時12分頃。次の快速アクティが発車する予定時刻とまさに同じだった。

電車のドアが開くやいなや、青春18きっぷ旅行者たちは一斉に次の5番ホームを目指して走りだす。電車の遅れに焦っていたのはみんな同じだ。山猫たちも走った。

3番ホームから5番ホームへは一度階段を下りて線路下を通り、また階段を駆け上る移動になる。みんながそれぞれに大きな荷物を抱えて走る。走れない。走りたいけど人が多くて走れない。でも、走る。走る。走れない。走る。

大混雑。

何とか5番ホームに駆け上がる。快速アクティはまだ発車していない。が、山猫はMとKの二人を見失ってしまった。今上ってきた階段を振り返ると、続々とリュックを背負った旅行者たちが押し寄せてくる。

もうすでに発車の時刻は過ぎている。待ってくれているらしい。でも、乗り継ぎ客の数が多すぎる。5番ホームは通勤ラッシュさながらの様相を呈していた。

人混みの中に山猫はやっとMとKを見つけ、電車に乗り込んだ。車内は満員だった。とりあえず間に合った。

ところで、熱海から乗る快速アクティにはグリーン車があり、すでにそのグリーン券も購入してあった。が、その車両までの移動ができない。

このグリーン券は、座席指定は関係ないので、空席がなかった場合は払い戻しできる仕組みになっている。でも、その払い戻しを受けるためには、グリーン車に空席がないことをその車両にいるらしいアテンダントに伝えて確認してもらわないといけないことになっていた。車内アナウンスでもそんなふうなことを言っている。が、そのグリーン車まで行けない。身動きが取れず、ただ立ち尽くすだけだった。

山猫のそんなモヤモヤした気持ちとは裏腹に、快速アクティは滑るように快調に走っていく。時刻は16時を過ぎ、あと少しで東京に着く。東京までの最後の電車はグリーン席に座ってゆったり寛いで、というつもりだったが、大幅に予定が違ってしまった。

でも、快速アクティが待ってくれていたお陰で、乗り継ぎに関しては当初の予定通りの電車に全て乗車することができたし、青春18きっぷ初めての旅、これで良し、かな。東京の街並みが車窓を流れていく。少しずつ気分も晴れてきた。

東京到着。

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東京駅丸の内北口改札を出たのは17時少し前、まだ空は十分明るかった。 

 

 

 

 

 

 

 

  
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