森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

これぞ柔道、大野将平

リオデジャネイロオリンピック柔道で男女を通じて初の金メダルを獲得したのは、男子73キロ級、大野将平。男子柔道では北京オリンピック100キロ超級の石井慧以来8年ぶりとなる金メダル獲得だった。

日本男子柔道界に重くのしかかっていた重圧を跳ね飛ばす見事な勝利。それは、あまりに美しい柔道だった。

決勝戦、相手はアゼルバイジャンのルスタム・オルジョフ選手。

開始1分30秒、まず内股で技ありを先取。そして3分過ぎ、大野は勝負に出た。

長身のオルジョフの胴を横抱えしたまま大野は左斜め前に走る。

1歩、2歩。2歩目の右足でオルジョフの左足を内側から払う。そのまま前に踏み替えた3歩目の右足を今度は残ったオルジョフの右足にからめて一気に押し倒す。オルジョフの大きな身体は勢いよく畳に叩きつけられる。

これぞ柔道、見事な一本勝ち。日本男子柔道の復活の瞬間だった。

しかし、大野は笑顔を一切見せない。静かに深く礼をして畳から下り、そこでやっと少し笑った。

「相手がいる対人競技なので、相手を敬おうと思っていました。冷静に綺麗な礼もできたのではないかと思います。日本の心を見せられる場でもあるので、よく気持ちを抑えられたと思います」

と大野は試合後のインタビューに答えている。

相手との対戦だけが柔道ではない。畳の上での所作のすべてが柔道である。ということか。

「内容的には満足できるものではなかったですけど、柔道という競技の素晴らしさ、強さ、美しさを、観ている皆様に伝えられたんじゃないかなと思います」

はたして、大野将平が目指したのは、金メダルだけではなかったのかもしれない。ここに至るまでに彼が辿った厳しい道のりを思うと、その言葉に一層の深みが加わる気がする。

2013年9月、大野が世界選手権で初優勝を飾った翌月、彼は全柔連から3か月間の登録停止処分を下された。強化指定選手からも外されている。理由は、彼が所属する天理大学柔道部で起こった暴力事件だった。

頂からどん底へ。大野にとって人生最大の試練だったろう。

一度は柔道を辞めることも考えた大野は、実家の山口県に戻って子供たちに柔道の指導をし、東日本大震災の被災地でボランティアとして体を動かし、謹慎期間を過ごしたという。

大野が目指したものが、このオリンピックの舞台で自分の柔道を、自分の生き方を、いかに表現するか、ということだったとすれば、それは十分に伝わったはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

  
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