森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

ブレードジャンパー、マルクス・レーム選手のオリンピック

ドイツのマルクス・レーム選手は右脚に義足をつけて跳ぶ「ブレード・ジャンパー」の異名を持つ陸上競技選手だ。種目は走り幅跳び。

レームは2015年の障害者陸上世界選手権走り幅跳びで、8m40cmの障害者世界記録を出した。これはロンドンオリンピックの優勝記録を上回っている。

これ以降、レームがリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックに出場すれば、両方でのメダル獲得は確実と目されるようになった。

ところが、状況はここから混沌とし始める。

レームが出したこの世界記録のために、義足はハンディではなく、むしろ跳躍において有利に働くのではないか、という論争が起こることになったのである。

これは見方を変えれば、障害者が健常者より跳べるはずがない、という一種の偏見である。そして、義足はずるい、という考えがその根底にあるのだ。

オリンピック参加標準記録8m15cmをクリアし、リオデジャネイロ出場を目指すレームに対し、国際陸上連盟は、競技の際に義足が有利になっていないことを科学的に証明するよう求めてきた。それが証明できなければオリンピックへの出場を認めないとの判断を下したのである。

そもそも、前回のロンドンオリンピックには、両脚義足のオスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)が義足の陸上競技選手として初めて出場しているにもかかわらず、だ。

理不尽とも言えるこの要請に対し、レームは義足が競技において有利に作用していないことを証明するデータを作成し、今年5月末に提出した。ところが、国際陸上連盟はそれに対して、競技の公平性の証明が不十分だとし、出場できるかどうかの結論を先送りした。

そんな状況の中、オリンピックの開催が刻々と迫ってくる。

オリンピックまであと1か月となった7月1日、レームはついにリオデジャネイロオリンピックへの出場辞退を決めた。おそらく、パラリンピック優勝に向けて気持ちを集中させるためだろう。

レームは中途障害者である。14歳の時、事故で右足を失ったのだ。そのショックから立ち直り、激しいトレーニングを積んで自分の体と義足とを操るすべを身につけてきた。並大抵の努力ではなかったはずだ。彼は義足を体の一部とすることで抜群の跳躍力を手に入れたのである。

確かに義足の進歩には著しいものがあるだろう。だが、誰が履いても大きく跳び、速く走れるわけではない。

しかし、弾力性がある義足は「テクニカル・ドーピング」だ、との考えが確かにある。

数年前、レーザー・レーサーという速く泳ぐことができる競泳用水着が話題になった。この水着を着用した選手が次々と世界記録を連発したことはまだ耳に新しいだろう。

だが、間もなくこの水着の着用は禁止されることになった。そして、水着の素材と水着が体が覆う範囲が規定されたのである。

問題の性質は、この高速水着の場合と全く同じというわけでない。だが、義足についても、その素材や形状などを早急に議論するべきだろう。

障害者のオリンピックへの参加を阻むことなど決してあってはならない。

マルクス・レームは、国際陸上連盟の「義足が有利に働いていないかを検証する」作業部会に新たなメンバーとして加わり、来年の世界選手権(ロンドン)に向けて規定の改正を目指すことになっている。

そこでの議論を踏まえて、世界的な規定に基づいたスポーツ用義足を開発することができれば、障害者と健常者とが同じトラックやフィールドで勝負することができる。

4年後の東京オリンピック。ぜひそれをこの目で観てみたい。

 

レーム選手のリオデジャネイロパラリンピック男子走り幅跳びの結果は8m21cm。もちろん金メダルであった。

なお、リオデジャネイロオリンピック男子走り幅跳びの結果は以下の通り。
1位;ジェフ・ヘンダーソン(アメリカ) 8m38cm
2位;ルヴォ・マンヨンガ(南アメリカ) 8m37cm
3位;クレッグ・ラザフォード(イギリス) 8m29cm
4位;ジャリオン・ローソン(アメリカ) 8m25cm
5位;王嘉男(中国) 8m17cm

ちなみに、世界記録はマイク・パウエル(アメリカ)が1991年に跳んだ8m95cm。この記録は25年間いまだ破られていない。

 

 

 

 

 

 

 

  
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