森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

柔道女子松本薫、連覇ならず

 

 

柔道女子57キロ級世界ランキング1位で臨んだ前回のロンドンオリンピック、松本薫選手は柔道男女を通じて日本勢唯一の金メダルを獲得した。

今回は世界ランキング6位。連覇を目指して出場したリオデジャネイロオリンピックだったが、準決勝で敗れ松本は銅メダルとなった。

リオデジャネイロオリンピック女子57キロ級準決勝。対戦相手はモンゴルのスミヤ・ドルジスレン選手。この試合が事実上の決勝戦と言ってもよかった。

ドルジスレンは、世界ランキング1位。今回のオリンピックで松本の最大のライバルだった。

闘志をむき出しにした鋭い眼光で相手を見据える松本。この表情が松本を「野獣」と呼ばせる最大の理由だ。

いつものように右足を前に出した、陸上短距離走のスタンディングスタートのような構えで松本は戦いの始まりを待っている。

試合開始の合図、組み手争いが始まる。

13秒、両者は相手の襟をつかんだ。

17秒、ドルジスレンが背負い投げをかける。が、両膝を畳につけて投げを打ったドルジスレンの姿勢がやや低く、投げは空振りに終わる。しかし、そのまま、両者とも組んだ手を離さない。

21秒、ドルジスレンがもう一度背負い投げをかける。松本の身体が浮いた。

松本はドルジスレンの背中に運ばれてきれいに一回転し、畳に叩きつけられた。

24秒、一本のコール。

あっけない幕切れだった。

直後、松本はうずくまったまま身体を動かさない。そして、起き上がった彼女の表情に「野獣」の面影はもうなかった。

その一つ前の準々決勝。松本は延長戦のゴールデンスコアを含めて7分50秒を戦っていた。勝利した松本は珍しくガッツポーズを見せた。ロンドンを優勝したときにも見せなかった感情の爆発だった。それだけキツかったということか。

その試合に続く準決勝だった。

「相手が最初に背負い投げに入ったときに、全然だったから大丈夫と思ってしまって。その一瞬の気の緩みのせいで、2回目の背負い投げに対応できなかったんだと思います。ストンと入ってしまった。今まで彼女と対戦したときは、1回しか、自分の調子が本当に悪かった1試合しか負けていなかった。どこか勝てると思い込んでしまっていたんだと思います」

松本は自分の心のスキが敗因だと振り返っている。

3位決定戦、相手は台湾の連珍羚選手だった。

畳に上がった松本は、大きく両足でジャンプする。跳躍力がすごい。そして、天井を見上げて、歯をむく。

「何も持たないで日本に帰れないと思って戦った」

3位決定戦の後、松本はそう語っている。

両者ポイントがないまま、試合は残り34秒になった。

左襟をとった松本は一気に相手の左足を内側から刈りにかかる。相手がバランスを崩す。松本はその勢いのまま前に出て、相手を畳にたたきつけた。小内刈り、有効。

その後松本は指導を一つ取られるが大勢は変わらず、試合は松本の勝利に終わった。

銅メダル獲得。

だが、松本にガッツポーズはなかった。目を閉じたまま疲れた表情を見せ、左手で前髪を払っただけだった。

「うれしいのと悔しいのと甘酸っぱい感じです」

連覇を目指した松本、銅メダルの味である。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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