森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

奥原希望のセルフトーク

 

 

コートに入るとき、胸にバドミントンのラケットを当てて左手で押さえ、奥原希望選手は何かつぶやいた。そして最後に一言、気合を入れるように口が動き、両手を体側におろして深々と一礼した。

「まずはこの舞台に立てることに感謝して、思いっきり楽しもう」

奥原はこう自分に言い聞かせていると言う。

高校3年生の11月、世界ジュニア選手権で奥原は日本勢として初めての優勝を果たした。だが、その2か月後の翌年1月、左膝半月板の負傷という選手生命を左右するほどの大怪我を負ってしまう。

奥原は満足に動けないまま、4月からは社会人となった。そして、手術を終え復帰したものの、その半年後、今度は右膝半月板を負傷してしまったのだ。

この2度の危機を乗り越えた頃から、奥原は先の言葉を自然と口にするようになったという。

ちなみに、世界ジュニア選手権決勝で対戦したのは、リオデジャネイロオリンピック準々決勝で日本人対決となった相手の山口茜選手。このとき、山口は中学3年生だった。

今年8月時点で、奥原希望21歳、世界ランキング6位。山口茜19歳、世界ランキング12位である。

対戦成績はオリンピックを終えて、奥原の7戦7勝。しかし、山口はオリンピックの舞台で、初めて1ゲームを奥原から奪った。

奥原は今、山口のことを「茜ちゃん」と呼んでいるが、いつか「山口選手」と呼ぶ日が来るかも知れない。山口は奥原の背中を追い続けている。

さて、奥原の試合に戻る。

コート内でストレッチをして身体をほぐした後、奥原は左、前、右、後ろへと身体を向けて、小さなお辞儀を繰り返した。そして、相手のサーブに身構えた。

見守ってくれる周囲の人たちへのお礼。相手への敬意。そして何より、今、試合ができることへの感謝。

たくさんの思いを実際に声に出して言う。頭を下げて態度で示す。

こうした一連の動作をルーティンとして行い、奥原希望は試合に立ち向かっている。

準決勝では、身長差マイナス23センチの戦いに奥原は0対2で敗れた。しかし、3位決定戦を戦うはずだったロンドンオリンピック金メダリストの李雪芮選手が左膝を負傷し棄権したため、3位決定戦は不戦勝で奥原に銅メダルが確定した。

怪我で苦しんだ奥原は、相手選手の怪我による不戦勝で銅メダルを獲得したことになる。

さて、奥原のセルフトークについて。

「まずはこの舞台に立てることに感謝して、思いっきり楽しもう」

参加することにこそ、参加できたことにこそ、意義がある。そして、大好きなバドミントンが最高の舞台でプレイできる。さあ、存分に楽しもうよ。

なんと気負いのない、前向きな言葉だろうか。

よい言葉はよいイメージを生み、よい結果を導き出すに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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