森の奥へ

街の喧騒に惹かれて森を出た山猫はいつの間にかずいぶんと歳をとった。いつかもう一度故郷の森の奥へ帰りたいと鳴くようになる。でも、街の暮らしはなかなか捨てられるものじゃない。仕方ないから部屋の壁紙だけ森の色に染めてみた。

男泣き、井上康生

 

 

人目をはばからず泣いていた。

井上康生が泣いていた。

どれほどの重圧だっただろうか、言葉は彼の思いを言い表すにはあまりに薄っぺらい。

それでも、井上康生は言葉を紡いだ。選手たちへの感謝の思いを口にした。

「4年前のロンドンでは屈辱の涙を流したんですけど……」

「選手を信じることだと思います」

と。声を詰まらせてから、さらにもう一度言葉をつないだ。

「選手を信じること。それだけだったと思います」

一方の選手たちも、井上康生を信じてついてきた。

リオデジャネイロオリンピックで日本男子柔道が獲得したメダルは、金メダル2個、銀メダル1個、銅メダル4個。つまり、全階級でメダルを獲得したのだ。

これは1964年の東京オリンピック以来の偉業だ。しかも、7階級制になってからは初の快挙である。

日本男子柔道は前回のロンドンオリンピックで金メダル0個という結果に終わっていた。ありえない結果だったとしか言えない。

その再建を託されて監督に就任したのが井上康生だった。日本男子柔道は彼のもとあらゆる面での改革を進めてきた。

練習量に頼っていた根性論的なやり方を改め、肉体改造、科学的な筋力トレーニングを取り入れた。また体づくり、コンディション調整の重要性から栄養学を重視した強化方針を打ち出した。さらに、柔道の本家というプライドを捨て、海外の民族格闘技を学ぶなど、数々の改革を進めてきたのだ。

日本柔道は井上康生によって大きく変わりつつある。それが正しい方向への改革であることが選手たちのオリンピックの畳の上での活躍が明らかにしてくれた。

井上康生は

「この7人は歴史に大きく名を刻んでくれた」

と選手たちを称えた。

リーダーが変われば選手たちが変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

  
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